第6話 異父妹

「あっ……。それにしても、どうして今頃……?」

 若い使用人――名前をエマと言ったか、エマもメアリが言わんとしていることを理解したらしい。

「先代の聖女様がお亡くなりになられたからだよ」

 先代の聖女――私の祖母は、つい最近亡くなった。聖女の座を母に譲り渡していても、実質的な権力は祖母が握っていた。

 そのため、祖母が生きている間は、母も好き勝手なことはできなかった。

 祖母が亡くなって、母が真っ先にやりたかったこと、それが、カタリナを自分の元に呼び寄せることだったのだ。



「カタリナ様が本当にエリザベート様の実娘だったなんて……聖女は、一人しか娘を産んではいけないはずですよね?」

「……そう。おかしなことにならなきゃいいけど」

 メアリは、少し間を置いてから答えた。

「本当に! 今朝なんて、あのお二人と廊下ですれ違ったら、とっても仲良さそうに買い物に行く約束なんてしていたんですよ!」

 エマは、国民の手本となるべき聖女が、堂々と違反を犯していることに怒りを感じているようだった。

 そして、私は衝撃を受けていた。私は、母と仲良く会話をしたことも、一緒に買い物に行ったこともない。

 母にとってカタリナは、私よりも特別な娘、ということなのだろうか?



「でも、これもマリア様が聖女になるまでの辛抱だわ。マリア様だったら理想的な聖女になられるでしょうから!」

「そうだといいけどねえ……」

 一体、メアリは何を知っているのだろうか、私はその場から動けなくなっていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る