第6話 相棒

「ということで、向井さんは民間人だが協力して貰うことになった。既に殉職者が出て人手不足だ、文句は言わせん」




 というわけで、俺は多田野さんに隊員に紹介された。そして、すぐに作戦説明に入る。




「今日は6人の班に分かれて要救助者を探し、救出する。1班は南へ、2班は東、3班は北、4班は西だ。帰還時はこの門を使うこと」




 というわけで集められた23人の隊員と俺は、班に分けられた。あとは各自でブリーフィングしろと言って多田野さんは宮内庁へと入って行った。








「というわけで、班長の泉だ」「武田です」「村雨です」「秋吉です」「近藤です」




 俺は割り振られた班の人に自己紹介された。と言っても名前だけだが。




「さて、さっそくブリーフィングだ。俺らは3班、北方面へ向かう。捜索範囲は神田川までだ。この広範囲を6人でとなると時間がかなりかかる。そこでツーマンセルでの行動とする。俺と武田、秋吉と近藤、向井さんは村雨と。それぞれの範囲は…」




 班長の泉さんは誰かが口を挟むまでもなく、命令を下達した。そしてすぐに出発となった。


 門を出ると、俺が入ってきた時とは違って土嚢などによって防衛拠点が構築されていた。そしてそれを超えると、特定感染者と見られる死体が複数転がっていた。かなりの数だ。


 気分を悪くしたが、努めて気にしないようにしながらその横を抜けて、堀の外へと向かう。


 そこから大通りを北へ向かい、首都高の環状線の下で3手に別れる。




「…その、よろしく」


「はい。向井さんは後方警戒をお願いします。では行きます」




 それだけ言うと、村雨さんはすぐに歩き出した。ここまでは先日のうちに救助と掃討が完了しているとのことで、ここからは未探索でどうなっているかわからないと班長の泉さんが言っていた。村雨さんの言っていた通り、主に後方を警戒しながら村雨さんについていくことにした。




 交差点を抜けて道路の真ん中を歩く。ぽつぽつと一般車が放置されており、一部は事故を起こして動かなくなっているようだ。だが、かなり静かだ。感染者は見えず、閑散とした非現実的な摩天楼が広がっている。




「…」




 相変わらず無口な村雨さんを追いながら、言われた通り後方警戒しつつ、通りをぐんぐん北へと進んでいく。左右にいくつものビルが立ち並んでいるが、それらは別のツーマンセルの捜索範囲、俺たちはもっと北なのだそう。




 誰もいない通りを進んでいくこと数分。某有名大学の建物がある場所についた。ここからが俺たちの捜索範囲らしい。村雨さんは無言で、大学の建物へと入っていく。


 俺は置いていかれないように彼女についていき、建物へ入った。








 施錠されていない扉を音が出ないようにゆっくりと開ける。そしてその場で周囲を警戒する。


 感染者がいないことを確認した後、村雨さんがいきなり声をあげた。




「生存者はいますか!自衛隊です!避難誘導に来ました!」




 しかし、帰って来るのは静寂だけ。もうここには誰もいないのかもしれない。


 そう思った瞬間、物音がした。


 村雨さんは即そちらへと向かって歩いていく。小銃を構えたまま前進する姿は非常に様になっている。




「誰か、いますか?」




 村雨さんがそう言って物音がした方向の扉を開ける。そして、発砲した。




 ――バンッ バンバンッ




 どさり、と倒れる音がした後、彼女は振り返って




「生存者はいないようです。次の建物へ行きます」




 そう言って、入って来た扉を開けて外へと出て行った。


 俺は言われた通り後方を警戒しながら彼女について行った。そして、後ろを見ると、数匹の感染者、ゾンビがわらわらと歩いて来るのが見えた。




 俺はすぐに外に出ると、近くに置いてあった外掃除用の箒を取って、両開きの扉に閂を掛けるように箒を扉の取っ手にかけた。




「何してるんですか?」


「あ、ああ、中から感染者が出てこないように…」




 そう言って箒の即席閂を指さす。




「そうですか。では、次に行きましょう」




 ちょっと感心したような口調だったが、すぐに素に戻ったように口調が固くなる。


 まあ、そうだよな、よくよく考えてみれば俺みたいなどこの馬の骨ともわからん奴と命を懸けた救出作戦なんて嫌に決まっている。


 俺は先ほどよりも少し彼女との距離を開けてついて行くことにした。




 道に出て次の建物へと向かう途中、ヘリコプターの音が聞こえた。どうやら自衛隊のヘリのようで、要救助者を探しているのか、大きく弧を書いて上空を旋回している。




 それを見上げた村雨さんの無線に連絡が入る。




 ―――***の建物ノ屋上二生存者ヲ認ム―――




 どうやら近くの建物の屋上に生存者がいるらしい。村雨さんが了解の意を伝えると、ヘリは他の場所へと向かって行った。




「あの屋上に生存者がいるそうです。ついて来てください」




 村雨さんはやや小走りで、指定された建物へと向かう。俺も同じように小走りで、かつ後方をたびたび警戒しながら彼女のあとを追った。




 ついたのは某不動産業者の本社(?)と思われる建物。


 村雨さんは正面から堂々と中へと入っていく。俺は少し嫌な予感がして、近くの外壁塗装のための足場にあった手頃な鉄パイプを手に取ってから、彼女のあとを追った。








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