第5話 助手?
俺はあまり眠れず、4時過ぎの明け方には目を覚ましていた。空は快晴で、東の空が淡い赤と紫に染まっている。
そんなやや暗い避難所の中を歩く。
「あ、向井さん、ちょっと」
しばらくほっつき歩いていると、多田野さんが俺を見つけて呼び止めた。手招きしているみたいで、俺は彼のもとへと小走りで向かった。
「すいません、あまり大きな声も出せない時間なんで、ちょっとこっちへ」
「はい」
俺は素直にしたがって自衛隊の設置したテントへと向かった。
「昨日はテントの設営を手伝って頂き、ありがとうございました。他の避難民の方はかなり疲弊していたので、あなただけに任せてしまいました」
「いえいえ、お気になさらないでください。最初にここに入れて頂いたんですから、それくらいは」
「そういうわけにもいきません。我々の仕事に協力してくださってんですから、これを」
そう言って多田野さんは俺に缶詰めを手渡した。とりめし、と書いてある。
「特別ですよ。我々の糧食ですが、遠慮なくどうぞ」
「ありがとうございます。実は空腹で結構ヤバかったんです」
俺はその場で缶詰めを開け、付属のプラスチックスプーンで中身を俺の中身へ搔っ込んだ。
「ハハハ、そんな急がなくても、誰も取りませんよ」「とりめしだけに(ボソ」
「食べながらで結構ですから、少しお話を聞いてください。我々は先日、霞ヶ関の状況も確認しましたが、政府機関は既に壊滅していました。議事堂内に生存者は0。すべて特定感染者に成り果てていました。官邸の方も、同じです。既に日本は政府機能を損失していました」
「ゲッホ、ゴッホ、オッボ」
俺はとりめしを喉に詰まらせそうになった。政府機能がない。総理大臣もその他の官僚も全て失ってしまったという。
「なな、なんでそんなことに?俺が通った時はそんなようには…」
俺が渋谷から逃げてきた時、そんな気配は微塵もなかった、気がする。目の前を通ったわけではないが付近を通過している。外から見た感じでは、未だいつもの喧騒が残っていた。
「ええ、我々が現場についた時も、外は普通でした。それがおかしいんです。今回のこの状況、どうやら何者かの攻撃であったのでは、と」
そんな大それたことする奴がいるか、と思ったが、絶対にないとは言えない。現にお隣の大国は何しでかすかわからない状況であったし。
「ですが、他の国でも先日と同時刻に特定感染者が出現したそうです。ほとんどの国で、です」
「となると、他国の攻撃ではない、んですね」
「ええ、自然発生ではないし、国家絡みの攻撃でもない、となると」
「国以外の組織が、ですか?」
「駅前で爆発に巻き込まれたそうですね」
そういえば、電車から出てきたゾンビに追われて駅を出た時、タンクローリーが爆発した。つまり、同時多発テロ、ということか。しかも全世界で同時に。
「恐らく、何者かが各地で同時に意図的に感染を急激に拡大させた。その後、自爆テロなどで被害を拡大させた、のではないかと」
「そう、ですか。今後はどうするんですか?しばらくここに立て籠もるんで?」
「いえ、物資にも限界があります。自衛隊の各駐屯地で避難場所の策定を行っています。そこに避難民を一気に空輸する手筈を整えています」
「そうですか、よかった」
俺はまだ助かる見込みがあると分かって安堵の息を吐いた。
「とりめし、おいしかったですか?」
多田野さんが話題を変えるように聞いてきた。俺は頷いて答える。
「ええ、とっても。ありがt」
「それはよかった!では、本題に入ります。ちょっと手伝って頂きたいことがありまして」
「え?え、あ、はい、俺にできることなら」
「では、生存者救出にご助力願います。今は1人でも人手が必要なんです」
え?俺民間人だぞ。とりめし食べてるから断りにくいし…って、それが狙いか。多田野さんが悪い笑顔になってる。ただその顔もすぐに表情が消える。
「向井さん、あなたは全くこの状況に物怖じしていないように見えます。我々自衛官ですら、平然としていられない状況で、あなたはなかなかに冷静です。今は冷静な判断ができる人が必要なんです。どうか、協力していただけませんか」
多田野さんは立ち上がってピシッとしてから、腰を90度に折って頭を下げた。すげえキレイな頭の下げ方だな。
どうやら俺が答えるまで頭を上げてくれるつもりはないようだ。
「わかりました。協力します。ですが、俺なんかが何をすれば?」
「これから周囲にある建物から生存者の救出任務を行います。それに同行していただきたい。私の隊は既に2名が殉職、3名が負傷しています。冷静に判断できなかった者です。あなたなら大丈夫、そうですよね?」
確かに、俺の頭の中は狂ってるほどに冷静だ。それでも死ぬのは怖いと思うし、正直言ってこの避難所からは出たくない。
それでも、俺に助けを求める人を無下にもできない。とりめしももらったし。
「ええ、任せてください。やってみましょう」
「ほんとですか!!ありがとうございます」
そんなこんなで、俺はアウトブレイク2日目の東京へと、生存者を救出しに向かうことになったのだ。
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