10. 突撃 「失礼しまーす」


 時間がないので俺の今までについて手短に話すと、なんとお母さんが泣いていた。


「ぐすっ、貴方そんな辛いことがあったのね。何も知らずにストーカーなんて言ってごめんなさい」

「あっ、いえ。決めつけてくる人が多くて、そういうのには慣れてますので大丈夫です」

「そんな悲しいこと言わないで」

「ありがとうございます。で、車の特徴は……」


 自分のことのように悲しんでくれるのは嬉しかったが、今は玲奈が心配だ。


「そうだったわ。妹さんを助けないとね。特徴は、黒くて大きな車だっだと思う」

「なるほど、向かった先は?」

「私たちが走ってきた方向をまっすぐ行って、ポストのあるところで右に曲がってたはずよ」

「凄い記憶力と、観察眼ですね」


 近くを通った車のことを普通は覚えてないと思う。


「まぁ、職業柄ね」

「気になりますけど、時間がないのでまた今度じっくりと聞かせてください」

「えぇ」


 すると、親子のうちの子供の方が話しかけてきた。


「くるまにね、まるがいっぱいついてたよ」


 丸がいっぱい?

 まぁ、車を見つけたらすぐにわかるだろう。


「教えてくれてありがとう」

「うん‼︎」

「じゃあ、頑張ってね」

「情報提供、ありがとうございました。また今度」

「おにいちゃん、ばいばーい」

   

 ストーカーじゃなくて、おにいちゃんって呼ばれた‼︎内心、感動しながらもそれは表に出さずに返事をする。


「またなー」






 __

 ____


 今の時刻は7時ちょうど。日が暮れて、街灯がついた頃だ。さぁ、玲奈を探すぞ‼︎まずはポストっと、あった。これを右に曲がって、ここからは自力で探すしかないのか。しばらくまっすぐ歩くと、十字路に遭遇した。さて、どうする?


 右の道はこれまでと変わらず住宅街。

 真ん中の道は大通りへと続く。

 左の道には、探偵事務所っていう看板がある。


 よしっ、探偵を雇うか。半分冗談だけど。

 結局、探偵事務所にお邪魔することにした。

 5分ぐらい歩くと、すぐに着いた。一眼見たところ、小さな普通のビルだな。前に止まってる車は黒くて大きい。ナンバーが『○○000 の・・・・』って、こんなあるんだな。全体的に丸みを帯びた字ばかりだ。とりあえず中に入るか。そう思った矢先、中から喧嘩をしているような怒鳴り声が聞こえてきた。


『こんな……聞いてない……くれるんだ‼︎』

『うるさ……お金なら……しょ?』


 うーん、よく聞こえん。もうちょっと近づくか。いくら怒鳴り声と言っても、ドア越しで聞き取りづらいので近づき、ドアに耳を当てる。


『荷物を運ぶだけで通常の3倍の額がもらえるなんて初めからおかしいと思ってたんだ‼︎』

『喜んで引き受けたのは貴方の方でしょ?』

『そういう問題じゃないだろ‼︎お前は未成年だから問題ないかもしれないが、こっちは捕まるかもしれないんだぞ‼︎』


 声と内容から察するに、どうやら未成年の女性と成人男性のようだ。なんか聞いたことある声だな。まぁ、気のせいか。


 荷物を運ぶと言っていたし、もしかしてここに玲奈がいるのでは?今思えば、表にあった車も条件と一致する。よしっ、凸るか。玲奈は犯罪者扱いの俺にとって、最後の希望だからな。絶対に失うわけにはいかない。そして、俺は職員室のドアから感じるプレッシャーと似たものを感じながら、ドアから普通に入った。


「失礼しまーす」

「「………………」」


 言い争いをしていたであろう二人が無言でこちらを凝視している。なんと、女性の方が柚乃だった‼︎そして、玲奈が椅子に縛られて寝ている。ってことは男性の方は柚乃を襲っていた強盗か?でも、なんで柚乃と強盗が一緒にいるんだ?


「柚乃……なんであの時の強盗と一緒にいるか聞いてもいいか?」


 すると、柚乃は盛大にため息をついた後、面倒臭そうに言った。


「……ハァァァ、丸は本当に鈍いわね」

「どういう意味だよ」

「貴方、まだ気づかないの?」

「気づくって何が?」

「私を襲っていた時から強盗と私がグルだったってことよ」


 あまりのショックに頭が追いついていけず、俺は口を開けたまま動くことができなかった。柚乃が本当のことを言っていると頭ではわかっている。だが、俺は信じることができなかった。……いや、違うな。信じたくなかったんだ。


「うそ、だよな?」

「嘘をつくメリットがどこにあるというの?」

「……なんでだ?なんのために強盗と手を組んだ?」

「愚問ね。私を強盗が襲ったことで1番ダメージを受けたのは誰か、足りない頭で考えてみたら?」


 1番ダメージを受けた奴……って俺か⁈でも、なんで俺なんだ?


「どうして自分なんだっていう顔をしているわね」

「実際そうだからな」

「本当にわからないの?」

「そう言われても、覚えてないものは覚えてないんだからしょうがないだろ」

「じゃあ教えてあげるわ。なんで貴方を嵌めたか」


 そう言って、柚乃は語り始めた。








 次回『全貌』

 ついに柚乃が丸を嵌めたシナリオが明らかに⁉︎

 そして、玲奈はどうなる⁉︎

 お楽しみに‼︎



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