9. 誘拐 「危なくないですよー‼︎」

 今はコンビニで色々買って、帰路についているところだ。玲奈は今頃何をしてるんだろう?俺の部屋を荒らしてないといいけど……。

 あれ?鍵が開いてる。出かけた時にはちゃんと閉めたはずなのに。まぁ、俺の気のせいか。


「ただいまー」


 ヘンジガナイ。タダノシカバネノヨウダ。じゃなくて‼︎あいさつは人としての礼儀だぞ、まったく。


「おーい、玲奈ぁー。夕飯買うついでに、アイスも買ってきたぞー」


 気持ち悪いくらい静かだ。おかしい、いつもならすぐに飛び出てくるというのに……。

 そうか、わかったぞ。玲奈は隠れて俺を脅かそうとしているんだな。その手には乗らんぞ‼︎だが、俺はアイスを持っている。くっ、俺だけ時限爆弾を抱えた状態でのチキンレースか‼︎時間が経てば経つほど相手の方が有利になる。なら、一気に決める‼︎


「うぉぉぉ‼︎」


 俺は部屋の奥まで駆け抜けた。周りを見渡すが、誰もいない。風呂場、キッチン、小部屋にベランダと思い当たる場所全てを探すが、見つからない。電話をかけるも繋がらないし……。

 そういや、鍵が開いてたな。まさか、誘拐⁈柚乃も強盗に襲われてたし、一応それっぽい聞き込みはしてみるか。








 ___

 ________

 〜30分後〜



 「今回の調査で……俺は……なんの成果も‼︎得られませんでしたァアア‼︎」


 俺が道端で手をついて叫んでいると、俺の心を深く抉った懐かしの親子が通った。


「ままー、あのときのすとーかーだよ」

「そうねー」

「さっきもドロボーとあえたから、ふたりめのふしんしゃだね」


 泥棒だと?まさか、柚乃ん家を襲った奴か?


「人を見た目だけで判断してはいけません」

「でもあのひと、おおきなにもつをはこんでたよ」

「あのーすいませーん」


 聞き捨てならない情報が聞こえたので、意を決して話しかけた。


「きゃー、すとーかー‼︎」

「違うから‼︎」

「何か御用でしょうか?」


 子供が悲鳴を上げるなか、お母さんらしき人が警戒しながら尋ねてくる。自分の子供と話している時と全然違う話し方をする人だな。


「今、泥棒がどうとかって言ってませんでしたか?」

「はい。そうですけど、それが何か?」

「そのことについて詳しくお話ししてもらえたら、嬉しいんですけど……」

「あぁ、そのことですか。2、3日前、あなたがストーキングしているところを見かけた後、しばらく歩いていると、あなたと似た服の、覆面を被った男性が走り抜けていったんです。」


 間違いない。確実にあの強盗だ。


「で、さっきも会ったというのは?」

「さっきあそこのマンションから、大きな黒い袋を運び出して車に乗せていたんです。」


 その女性は俺の住んでいるマンションを指差して、そう言った。


「もう行ってもいいですか?」

「あっ、はい。ありがとうございました」


 そうして、親子は去って行った。


「ふ、ふふふ……フハハハハハハハハ」

「ままー、すとーかーのあたまがおかしくなっちゃったよ」

「あんな人には近づいちゃダメよ〜」


 なんか去って行ったはずの親子が、後ろの方でごちゃごちゃ言ってるが、気にせず叫ぶ。


「よっしゃーーー‼︎尻尾掴んだぞぉーーー‼︎」


 まずは、大きな荷物を乗せたっていう車を探すか。

 ……車の特徴、聞いてなくね?そのことに気づいた俺は、先ほどの親子をダッシュで追いかける。


「ままー」

「どうしたの?」

「すとーかーが、はしっておいかけてきてるよ」

「ッ⁉︎逃げるわよ、ほら急いで」


 俺が追いかけているのを見た途端に親子が逃げ出した。しかも、お母さんが子供を抱っこして走るようだ。それでは長く走れまい。そして、俺は止まってもらうために叫んだ。

 

「待って下さーい‼︎危なくないですよー‼︎」


 客観的に見たらヤバい奴だが今はそんなことに構っていられない。これで止まってくれるはずだ。と思ったら、走るスピードが速くなったんだが⁈なんでだ?






 〜走ること3分〜


「ハァハァ、良い加減、止まって、くれませんか?」


 だが、運動不足な俺にいきなり走れと言われてできるわけがない。


「ハァハァ、貴方の方こそ、止まりなさいよ」





 〜さらに3分〜


「ゼェゼェ、もう、ゼェゼェ、むり……」

「ハァハァ、まだ、ハァハァ、6分くらいよ」

「子供、ゼェゼェ、抱えてるのに、ゼェゼェ、すごいですね」

「主婦を、ハァハァ、舐めるんじゃ、ハァハァ、ないわよ」


 だが、すぐに2人とも限界が来た。


「「……もう無理ー‼︎」」


 2人同時に倒れ込む。なんとか力を振り絞り、近くの小さな公園のベンチまで行った。もう日が暮れかけていて、誰もいない。しばらく息を整えたあと、お母さんが話しかけてきた。どうやら、会話をしてくれる気になったらしい。


「今度は何が聞きたいの?」

「大きな荷物を運んだ車の特徴を教えてください」

「いいわよ。でも、その代わりに何のためにあなたがそこまで頑張るのかを教えてちょうだい」

「いいですよ、じゃあ俺から話しますね」


 そして、俺が犯罪者扱いされていることや、妹だけが俺のことを信じてこれまで通りに接してくれたこと、その妹が行方不明であることなどを手短に話した。










 次回『突撃』

 玲奈との再会なるか⁉︎

 そして、犯人は⁉︎

 お楽しみに‼︎





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