7. 同棲 「運動してないだけだし‼︎」

 カタツムリのことを話しながら歩いているとすぐに俺の家に着いた。


「じゃあ、また明日」

「何言ってんの、お兄ちゃん?」

「あれ?今日会うのはこれで最後のはずだろ?」

「えっ、今日から私もここに住むんだよ?」


 玲奈は当前と言わんばかりの表情で言う。

 そして俺は驚きのあまり、叫んでしまった。


「……はぁぁぁ⁉︎」


 フリーズが解けた俺の叫びは雨上がりの空へと吸い込まれていった。


「いやいやいやいや何言ってんだ?まず両親が、特に母さんが許してくれるわけないだろ?」


 そう、あの母さんのことだ。

 可愛い娘を犯罪者の元で生活させるわけがない。

 俺が犯罪者だと言うのはもちろん誤解だが、母さんは思い込みの激しいところがある。母さんにとっては俺が犯人であるということが真実なのだろう。

 それに俺は両親から相当嫌われてるみたいだしな。だって、見送りさえしてくれなかったんだぜ。

 もう、泣きそう……。


「両親のことなら心配しなくても大丈夫だよ。お兄ちゃんの監視役ってことでOK貰えたんだ」

「それでもだいぶん止められたんじゃないか?」


 簡単に許されるとは思えん。

 そんな疑念を解消すべく、再び玲奈に質問した。

 

「お兄ちゃんみたいな引きこもりに負けるわけないって言った。」


 引きこもりってストレートに言われると結構キツいワードだな。っていうか俺、引きこもりじゃないし‼︎ただ運動してないだけだし‼︎


「内容はともかく、それで説得できたんだな」

「これで私達の前に立ちはだかる壁は何もないよ‼︎」

「……いや、よくよく考えたら普通にダメだろ」


 周りにバレた時のリスクが大きい。

 特に爽やかイケメン君がまた一段と面倒臭くなりそうだ。


「でも、誤解を解くための作戦会議とかでは便利だと思うんだけどなぁ」


 誤解を解く?

 何の話をしているんだ?


「あっ、あの時の……」


 玲奈の胸でギャン泣きした後、柚乃を襲ったっていう誤解を解きたいって頼んだんだった……。


「お兄ちゃん、まさか自分から手伝ってって頼んでおいてそのことを忘れてるなんてことないよね?ね?」


 ここは嘘をつく以外に助かる道はない。

 ぐっ……玲奈の目をまっすぐ見ることができないぞ。なぜだ?


「俺がいい人だからか‼︎」

「んん〜?約束忘れといてよくそんなこと言えるね。痛い目を見ないとわからないかな?」


 あははー、玲奈の後ろに炎を出してる鬼が見えるぞ。俺、クスリはやってないはずなんだけどなー。

 冗談はこのくらいにして、すぐに謝らなかったのはミスだったな。玲奈、絶対怒ってる。顔は笑ってるけど、目がめっちゃ怖いもん。


「あのぉ、玲奈さん?」

「はぁ……そういうのも含めてお兄ちゃんなんだもんね?……でも、誤解を解きたいって願いのことなんで忘れてたの?」

「いやぁ〜確かに学校での冷たい視線は痛いけど、それ以上に玲奈の暖かさのおかげでそこまで辛くはないんだよ。だから、本当にありがとう」


 初めは玲奈も両親と同じように犯人扱いすると思っていて、優しくされるなんて思いもしなかった。

 玲奈がいなかったら、家族と学校でのダブルパンチで自殺していたかもしれない。だから本当に心から感謝している。


「お兄ちゃん……」

「玲奈……」

「お兄ちゃん……」

「玲奈……」

「お兄ちゃん……」

「玲奈……」

「お兄ちゃーん‼︎」

「玲奈ぁー‼︎、ってもうこの茶番やめにしてもいい⁈」


 こんな、二人が見つめあって情熱的に互いの名を呼び合うロマンチック(?)なのは俺たちには合わない。


「お兄ちゃんが乗ってきたから長引いたような気が……。まぁいいや、それで今日から私がここに住むにあたって重大な問題が発生しちゃってるんだよ」


 そういや俺の家に住むことになったんだったな。

 俺まだ許可してないけど、多分押し切られるから抵抗しても労力の無駄だ。血の繋がった兄妹とはいえ、高校生の男女が二人で同棲するのはいかがなものか……。ちなみに玲奈が高1で、俺は高2だ。


「で、重要な問題って何?」

「実は……私の家具がまだ届いてないんだよ‼︎」

「なんだそんなことかぁ〜」

「そんなことで済まないよ‼︎ベッドがないんだよ‼︎寝る時はどうするの‼︎」

「そんなの俺がソファーで寝れば、って、ないんだった〜‼︎」


 一人暮らしなら必要ないだろうと両親が買ってくれなかったんだ。しかも、家のソファーは大きすぎて部屋に入らないし。床に寝たら体が辛いし、どうしたものか……。俺が思い悩んでいると、玲奈が名案を思いついたらしく声を上げた。


「私とお兄ちゃんが一緒に寝れば良いんだよ‼︎」

「はぁ……あのなぁそれはダメなことぐらい玲奈にもわかるだろ?」 

「なんで?なにがダメなの?」


 玲奈がピュアピュアな眼差しを向けてくる。

 学校の先生が小学生に純粋な目で、『子供はどうやってできるの?』って聞かれた時の気持ちがよくわかる‼︎わかるぞー‼︎

 ここは真面目に答えるか……。なんでダメなのか。確かになんでダメなんだろ?っていかんいかん、玲奈のペースに巻き込まれてしまっている。













 次回『柚乃』

 久々の柚乃だー。

 お楽しみに‼︎

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