6. 蝸牛 「不可抗力?」

 俺は……見てしまった。

 玲奈が殺しをしている現場を……。

 時を遡ること、約20分。



「お兄ちゃん、一緒に帰ろ〜(たまには撮影をせずに放課後デートを楽しんでもいいよね‼︎)」

「おう。折り畳み傘は持ってるか?」



 今朝はすごくいい天気だったのに、午後から急に降ってきた。雨はテンションが下がるから嫌いだ。



「もちろん‼︎」

「じゃあ一緒の傘に入って帰る必要はないな」

「はっ……しまった」



 玲奈が崩れ落ちた。

 何をそんなに残念がっているんだ?

 ……そうか、わかったぞ。あれは残念がっているんじゃない。俺なんかと相合傘せずに済んで、喜んでいたんだ‼︎

     


「お兄ちゃんと相合傘、したかったのに……」

「………………」



 ……言い訳をさせて欲しいです。

 だって現実世界で兄と相合傘したがる妹なんているわけないじゃん‼︎



「外しても、しょうがないよな‼︎」

「なにが?」

「なんでもない‼︎帰るぞ玲奈‼︎」

「積極的なお兄ちゃん……いい‼︎」



 何を言ってるんだ?兄妹愛にしては愛が深い気が……まぁいいか。


 浮かび上がった疑問を振り切って玲奈と二人で下駄箱で向かう。

 すると、爽やかイケメン君がやってきた。



「ちょっと待った‼︎」

「何?今、私たちは放課後デートをしようとしてるんだけど?」

「あ、いやその……」



 及び腰でしどろもどろとなる、爽やかイケメン君。

 まだあの時のトラウマが残ってるんだ。

 可哀想に……。



「ドンマイッ、爽やかイケメン君‼︎」

「貴様‼︎妹さんに無理矢理一緒に帰らせて、心が痛まないのか‼︎」



 テッテレー‼︎君から貴様にランクアップしたぞ。

 心底どうでもいいし、早く帰りたいんだが……。

                



「私は望んでお兄ちゃんと帰ろうとしてるんだけど」

「家で脅迫されて、言わされてるんだね?」

「違うけど」

「僕達が必ず救ってみせるから、もう少しだけ待っていてくれ」



 ここまで人の話を聞かないとなると、わざととしか思えないな。



「意外と雨、強くないね」

『それでだな、もし僕達が君を救った暁には僕と、僕と、……やっぱまだ無理〜‼︎』

(←皆様もスルーして頂いて構いません)



 玲奈はもうスルーしている。

 勝手に割り込んできて、告白しようとした挙句に恥ずかしくなって逃げていった、爽やかでイケメンな奴が居たような気がしないでもないが、気にしな〜い。


 傘を差すほど強くはないが、差さないとツラい感じの雨である。



「ほんとだ。でも、こういう時って傘を差すかどうか迷うんだよな」

「結局は差すんだけどね」 

「そういや昼飯、食べ損ねたな」

「あの、人の話を全く聞かない人のせいだね」

「そうだな」



 そんな、他愛ない会話をしながら歩き出す。 

 しばらくしてから玲奈が何か見つけたようで、声を上げた。



「あっ、蝸牛カタツムリだ‼︎」

「珍しいな」

「ツンツン」



 玲奈が足で突いている。

 かわいそうなカタツムリ……。



【グシャッ】



「……おい、玲奈さんや。今、かなりヤバめの音がしたんだけど?」



 足元を見ると……殻が割れ、ぐしゃぐしゃになったカタツムリがいた。

 俺は……見てしまった。

 玲奈が殺しをしている現場を……。



「あの、お兄ちゃん。違うの、これはえぇっと……不可抗力?」



 可愛らしくそう言う玲奈。

 マジでヤバい奴じゃねぇか。



「普通に引くわ〜」

「これには深〜〜〜いわけがあるのです‼︎」



 なんで丁寧語?

 それに、理由と言ってもどうせロクでもない理由だろう。だが、仏の心で俺が______



「聞くだけは聞いてやる」

「よしっ‼︎……あれはまだピュアピュアな幼稚園児だった私が温泉へと家族旅行に行った時でした。あっ、今でもみんなのアイドル、玲奈ちゃんはピュアピュアだぞっ‼︎」

「そういうの要らないから」

「続き、話してもいい?」

「玲奈が無駄なことを言うから話が途切れたんだろ‼︎」

「細かいことは気にしな〜い。……温泉に入ると、岩肌にカタツムリがたくさんいたのです。そして、当時のピュアピュアな私はカタツムリを握り潰そうとしました」



 握り潰そうとしたのは果たしてピュアピュアと言えるのか?



「でも、当時の私にカタツムリの殻は硬過ぎたのです。結局握り潰すことはできず、私の中でカタツムリの殻はとても硬いという認識になりました」



 なるほど、先が読めてきたぞ。つまり硬いという記憶が残っていたから踏んでも大丈夫と認識したんだな。



「仮に硬かったとしても踏むのはどうかと思うぞ」

「ド正論‼︎」

「それに、幼稚園児の頃とはかなり体格も違うんだし、ちょっと考えたらわかると思うんだけど?」

「またもやド正論‼︎カタツムリを見て、考える前に衝動で動いちゃったんだよ」



 いつもの口調に戻っているそう言う玲奈。

 丁寧語は回想トーク専用か?



「これからは行動する前に考えること。いいな?」

「むぅ、わかった」










     









《あとがき》


 ちなみに踏み潰したのは私です。

 昔より、ずっと成長していたことを知れた出来事だったなぁ〜。


 ちなみに次の日にはもう消えていました。

 カラスにでも食べられたのかな?


 カタツムリさん、ごめんなさい。



 次回『同棲』

 玲奈が俺の家に住む⁉︎

 お楽しみに‼︎



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