2. 実家 「どうして……、」

「「愚息がご迷惑お掛けして本当に申し訳ありませんでした」こちら、つまらない物ですがよろしければ」


 今、俺の両親が柚乃の両親に謝罪している。


「菓子折りをわざわざありがとうございます。まぁ、丸君もほんの出来心でしょうし、柚乃もあまり大事にはしたくはないと言っていますのであまり気になさらないでください」

「いや、そういうわけにはいきません」


 って感じで、しばらく父親同士で話し合った結果、俺は柚乃への接触禁止、さらにマンションで一人暮らしをさせられる事となった。

 警察沙汰にならなかったのは、柚乃が大事にしたくないと言ったことが大きく関係しているのだろう。


「「この度は寛大な処置をして頂きありがとうございます。重ね重ね申し訳ありませんでした」ほら、あんたも」


 母さんに小声で謝罪を促される。


「この度は本当にすいませんでした」


 残念ながら、俺には話がまとまったこのタイミングで、『何もやっていない』と声を上げられる程の勇気は無かった。


「いえいえ、もう終わった話ですから」


 結局、ほとんど父親同士で話していただけだった。







 ___

 ________



 家に帰ってからは当然のように両親と俺の話し合いである。


「なんであんなことをしたんだ?」


 父さんは冷静に聞いてくる。


「俺は何もしていない」

「アンタ、この後に及んでそんなことを‼︎良い加減にしなさいよ‼︎」


 一方、母さんはかなりヒートアップしているようだ。


「もう良いだろ。どうせ何も変わらないんだし」


 そういって、俺は自室へと向かう。

 どうせ誰も俺を信じてくれない。


「ちょっ、待ちなさい‼︎」


 後ろから母さんの呼び止める声が聞こえてくるが、それを無視して自室に逃げ込む。

 そして、枕に顔を沈めた。












 一人になると、どうしても考えてしまう。


 どうして俺の話を誰も聞いてくれないんだ‼︎

 どうして誰も俺を信じてくれないんだ‼︎

 どうして俺だけこんな目に遭わなくちゃならないんだ‼︎

 どうして……、

 どうして……、

 どうして……、

 どうして……、

  ・

  ・

  ・                                            

 


 疑問ばかりが溜まっていく。
















 なんか疲れた。


 ……寝よ。



 その日はご飯を食べず、お風呂にも入らずに寝た。









 ___

 ________



 翌日。

 今日は日曜なので学校は休みだ。

 そして、マンションに引っ越しをする日でもある。


 新居は今住んでいる家から15分くらい歩いたところにあるマンションで、学校への距離は近くなった。

 引っ越しの準備が整い、これから家を出て新居へ向かうところだ。


「両親からの出迎えはなし……か。俺もだいぶん嫌われたな」


 どうやら昨日の話し合いの途中で自室に戻ったことで、両親からは完全に見放されたらしい。


「お兄ちゃん‼︎」


 どうやら玲奈は見送りに来てくれたようだ。


「玲奈か」

「ねぇ、どうして引っ越しちゃうの?やだよ‼︎まだ一緒にいたいよ‼︎」

「玲奈は俺みたいな犯罪者でもこれまでみたいに接してくれるんだな」


 丸の目は希望の光が一筋もなく、絶望で染まっていた。


「当たり前だよ‼︎お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん‼︎むしろ急に態度を変えるお父さんとお母さんがおかしいんだよ‼︎だから気にしないでね‼︎(……それにあの時もお兄ちゃんのことを撮影してたから、柚乃ちゃんを助けたのは知ってるし)」

「玲奈は本当に優しい子に育ったんだな」

「えへへ、お兄ちゃんほどじゃないけどねぇ〜(撮ったビデオをお母さん達に見せたらお兄ちゃんの無実を証明できるけど、私がお兄ちゃんのストーカーだってバレちゃう。そしたらきっとお兄ちゃんに嫌われる。そんなのやだ)」

「じゃあ、元気でな」

「うん。じゃあ、いずれまたここで」


 玲奈が何やら意味深なことを言った。


「どういうことだ?」

「さぁね。あと、私はお兄ちゃんが柚乃ちゃんのことを襲ったりするはずがないって信じてるから‼︎」


 周りがこんなに俺の話を聞かずに、頭ごなしに怒鳴ってくるのに……玲奈は、玲奈だけは俺のことを信じてくれている。


 胸が熱くなった。

 あぁ、家族ってこんなにも暖かいものだったんだな……。


「えっ、ごごご、ごめん‼︎私、なんか気に障っちゃった?」


 玲奈が焦ったように言う。


「なんで玲奈が謝るんだ?」

「だってお兄ちゃん泣いてるし……」


 俺が、泣いてる?

 信じられずに目元に触れると、……濡れていた。


「あれっ?なんで俺、泣いてるんだ?」

「ごめん。やっぱり私のせいだよね?」

「違うよ。俺のこと信じてくれる人なんかいなかったから嬉しくて、だからこれは、ってうわっ‼︎」


 玲奈が急に俺の頭を自分の胸元に引き寄せたのだ。


「あの、玲奈さん……これは一体?」

「お兄ちゃんは一人ぼっちで、誰に信じてもらえなくて、誰にも必要とされなくて、辛かったんだね、寂しかったんだね。お兄ちゃんは優しく頼りになるけど、誰かのことを頼ったことは一度もなかったでしょ?でも、もう我慢しなくても良いんだよ。自分の言いたいこと、やりたいことを他人にぶつけても良いんだよ。今まで気づいてあげられなくてごめんね。もう大丈夫だよ。お兄ちゃんには私がいるよ。お兄ちゃんは私が必要とするよ。だから、これからもずっと一緒にいてね」


 あぁ、どうして玲奈はこんなにも俺が欲しい言葉をくれるのだろうか。


 そんなこと言われたら、年甲斐もなく大声で泣き叫びそうになるじゃないか。




 この時にはすでに、丸の目から絶望の色が完全に消えており、代わりに光を取り戻していた。



  





      







 次回『新居』

 丸の新たな住処とは⁉︎

 そして、玲奈の登場により丸の生活が一変する⁉︎

 お楽しみに‼︎



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る