第1章 柚乃

1. 強盗 「ままー、すとーかー」

 下校中に幼馴染の『凌 柚乃』(しのぎ ゆの)が彼女の家の玄関で、顔を隠して刃物を持った強盗っぽい人と漫才(?)やってるんだが⁉︎

 


 面白そうなので、電柱の影からちょっと見てみよう。すると、小さな女の子とお母さんらしき人が横を通った。


「ままー、すとーかー」

「そーねー、ストーカーねー。でも、危ないからあんまり見ちゃダメよ」

「うん‼︎わかった‼︎」


 こんなことで傷付く俺では、俺では……グスン。

 一人で涙を流しているこの男は放っておこう。

                 

「イヤッ、やめて‼︎こっちに来ないで‼︎」 

「お前には興味ねぇよ。俺はここの家の財産が欲しいだけだ」 


 テンプレ発言をする柚乃と、柚乃の容姿に惑わされず財産だけを狙う強盗の鑑による戦いの幕が切って落とされたぁー‼︎

 実況は私、新鞍丸でお届けします。


「どうせ私の体が目当てなんでしょ⁉︎」


 柚乃が決めつけるように言った。

 昔から人の話を聞かない奴だったからな……。


「話聞けよ‼︎俺は3次元に興味はねぇよ‼︎」


 わかる。すっごいわかる。

 一回2次元にハマると、もう3次元に興味が無くなっちゃうもんな〜。

 というか、俺もそのうちの一人だし。


「社会からの落伍者さんでしたか。残念な人ですね」


 柚乃が先程より20℃程度下がったトーンで言う。

 ぐっ……確かに俺は社会不適合者だが、2次元をバカにするものはたとえ柚乃であっても許さんぞ‼︎

 あっ、俺への言葉じゃなくて、オタ発言(?)した強盗への罵倒だったわ。



「お前も十分ヤバいだろ‼︎」

「どこを見てそんなことを言えるのか、私にはわからないわ。貴方の目、腐っているのではないかしら?ほじくり出してあげましょうか?」


 柚乃が完全に他人行儀な言い方で辛辣に罵倒をする。俺だったらかなりのダメージを受けていただろう。


「自分の家に押し入ってきた強盗にそんなこと言えるところだよ‼︎感心通り越して、怖いわ‼︎」

「私、大物なの。あなたみたいな落ちこぼれ強盗なんかにビビるもんですか」


 と言いつつ、柚乃の足はめっちゃ震えてるけど、強盗は気づいていないようだ。

 この強盗バカなんじゃね?


「お前自分の立場わかってんの?こっちは刃物持ってんだぞ?」

「ハッ、そんなちゃっちいの怖くも何ともないわよ」


 いや、ちゃっちくは無いだろ‼︎

 遠いからよくわからんが、手首から肘くらいの長さはありそうだぞ。これでちゃっちいって、あいつ普段どんな刃物使ってんだ?


「これでちゃっちいって、お前普段どんな刃物使ってんだ?」


 おっ、案外この強盗とは気が合うかもしれない。


「何で強盗なんかに教えないといけないの?」

「お前いつまでも去勢を張ってんじゃねぇよ‼︎さっきから足が震えてんのはわかってんだ‼︎」


 この強盗、柚乃の足が震えてるの気づいてたんだ。

 なかなか観察力のあるやつだ。


「キョセイナンテハッテナイワヨ」

「お前嘘下手すぎるだろ‼︎大声とか出すなよ。もし出したら……」


 そう言いながら強盗は柚乃の首に持っている刃物を押し当てる。


「ヒュッ」


 何だかよくわからない声を出して、柚乃が気絶した。


「おいおいマジか……まぁ静かになったから結果オーライってことで、金品物色しますか」


 基本的に自分から動かない俺もこの時は流石に動いた。だが、ラノベの主人公のように声を上げつつの突進なんてバカな真似はしない。

 せっかくまだ見つかっていないのにここで声を上げるなんて愚策の極みだ。普通にやっても負けるだろうから、そろりそろりと近付き背後からの奇襲を仕掛けよう。

 今持ってるものはシャーペン、教科書、スマホ……これでどうしろと‼︎

 ……帰るか。


「フンフフンフーン」


 気兼ねなく物色できてご機嫌な強盗は奥の方に行ったようだ。このまま帰ろうかと思ったが、楽しそうな強盗の邪魔がしたくなったので、俺は少しずつ柚乃の家に近付いていく。しゃーない、強盗の邪魔するついでに柚乃も助けてやるか。


 でも、気絶している柚乃はスルーしていくぅ〜。


 やっぱり武器がない。なんか柚乃の家で探すか……。おっ、玄関に花瓶を発見。あれで後頭部を殴れば一発KOくらいは取れそうだ。テッテレー、花瓶ゲットー‼︎これで武器は手に入った。


 今、強盗はおそらくリビングにいるだろう。

 ちなみに柚乃の家は2階建ての一軒家だ。玄関から続く廊下をまっすぐ言ったところにあるドアの向こうがリビング。そして、その途中に2階に続く階段がある。俺は階段の上で待ち伏せ、強盗が2階に上がってきたところで突き落とす。


 音を立てないように階段を上り切った。あとは強盗を待つだけだ。……この作戦だと花瓶いらなくね?

 無駄なことしちまったー‼︎ま、いっか。

 強盗がリビングから出てきたようだ。しかも今、階段上ってきてるぅー‼︎

 心臓の音がうるさい。落ち着け、俺。

 すっすっはーすっすっはー。

 なんか違うような気がしたが、とにかく落ち着いた。


 行くぞ、3・2・1……。俺は階段から強盗を突き落とした。


 強盗が信じられないものを見たような顔をして浮いている。直後、強盗が階段から転がり落ちていき1階からものすごい音がした。



「よしっ‼︎やったぞ‼︎」



 まさかこんなにもうまく行くと思っていなかったので、正直びっくりしている。喜んだのも束の間、なんと強盗が起き上がって柚乃の家から逃げていったのだ。


「待て‼︎クソッ‼︎逃げられた。……あっ。」


 階段に強盗が持っていた刃物が落ちている。一応、証拠品なので手に取ってから1階に降りる。


「それにしてもこの包丁(?)本当に長いな〜。」

「……んぅ。」


 柚乃が可愛らしい声を上げて目を覚ました。

 そして俺を一目見ると……


「キャーーーーーー‼︎」


 悲鳴を上げながらどこかにいってしまった。

 柚乃は頭でもおかしくなったのか?


「あっ。」


 そこで俺は気付いてしまった。


「俺……犯人って思われたんじゃね?」


 まず、強盗と服装が似ている。なんでだよ‼︎あいつと俺マジで気が合うな‼︎しかも、強盗は顔を隠していたから素顔がわからない。極め付けは、今俺が強盗の刃物を持っていることだ。





 終わった……。

 あの様子だと事の次第を説明しても、信じてくれるかどうかはあやしい。



 これからどうしよう……。















 これから丸はどうなるのでしょうか?


 次回『実家』

 家族からの追放されるのか⁉︎

 そして、妹が登場‼︎……するかも。

 ちょっと暗いですが、すぐに明るくなるので我慢してください。

 お楽しみに‼︎




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