12. 過去 「お嫁なんかにいかせるか〜」

 時は遡り、ちょうど1年前。高校生活に慣れて、だれてくる10月のある日。


 その日は、朝からクラスの陽の集団が変だった。

 いつもは馬鹿みたいに騒いでいるのに、今日はそれぞれの席に座っており、俺と柚乃を交互にチラチラとみている。柚乃は始終ソワソワしているし、なにが起こっているのか、当時の俺には全く分からなかった。


 そんな状態で午前の授業は終わり、いつものように屋上でボッチ飯へと洒落込もうとした時だった。

 なんと、ずっと疎遠だった柚乃が話しかけてきたのだ‼︎


「放課後、時間は空いているかしら?」

「別になにもないけど」

「あっそ……なら、大事な用事があるから放課後ちょっと付き合いなさい」

「お、おう」


 なんだったんだ?久々に話しかけてきたと思ったら、まさか意味不明な呼び出しをくらうとは……。

 ま、いっか。今は可愛い可愛い俺の玲奈が作ってくれたお弁当を堪能しよう。昼休みということもあってテンションが上がる。


「可愛い可愛い俺の玲奈〜俺のじゃないけど、俺の玲奈〜お嫁なんかにいかせるか〜」


 周りが残念な奴を見る目をしている。

 俺、なんか変なことしてた?ただ、歌って踊って屋上へと向かってただけだぞ。








 ____

 ________


 屋上は日陰でジメジメとしているので、告白ぐらいでしか使わない。にもかかわらず、今日は珍しく先客がいた。暗くてよく見えなかったが、どうやら柚乃のようだ。


「柚乃がこんなところにいるなんて珍しいな」

「放課後、貴方に大事な用事があるって言ったでしょ?今済ませてしまおうと思って」

「そうか……で、用事って?」


 柚乃は目を閉じて深呼吸をしている。なんか、試合前の選手みたいだな。そして、柚乃が口を開いた。


「貴方のことを見ていたの。何年も何年も何年も、ずぅぅぅっと。貴方は、顔は普通で、オタクで、運動能力も壊滅的でいいところなんて殆ど無い。」

「ひどい言われ様だな。まさか、それを言うために呼んだのか?」

「でも‼︎でも、それを全て補うだけの優しさが貴方にはある。いざと言う時は誰よりも勇敢な人。ねぇ、覚えてる?私が中学1年生の頃、誘拐されそうになったことあったでしょう?」

「あぁ、覚えてるよ。」


 柚乃は中学1年生の頃から、美人だったからな。

 狙う奴らも当然いたわけだ。


「貴方、弱いくせに私を攫おうとしてる大人達に突撃するんだもの。正直、自分が攫われそうになっていることよりも、普段消極的な貴方がなんの迷いも見せずに突撃してきたことの方にびっくりさせられたわ」

「うるさいな。誰だってそうするだろ」


 たまたまそこにいたのが俺ってだけで、別に俺じゃなくてもよかったんだ。


「でも、実際に動いたのは貴方一人だったわよ」

「………………」

「今思えば、あれが最初で最後の丸の本気だったのかもね」

「ボコボコにされたけどな」


 そう、カッコ良く突撃したものの運動不足な俺が大人数名に敵うわけがないのだ。結局、近くにいた人が警察に通報してくれたため、命拾いした。


「行動してくれたことが嬉しかったのよ」

「そ、そういえば、用事ってなんなんだ?昔語りが用事ってわけじゃないんだろ?」


 なんとなく気恥ずかしくなって、話を逸らす。


「……丸、私と付き合ってくれないかしら」


 付き合って?あぁ、何か一緒にして欲しいことがあるんだな。それならそうと初めから言ってくれればよかったのに。


「内容にもよるけど、いいよ。何したらいい?」

「……私の言い方が悪かったわね。まさかこんな短時間に2回も告白することになるなんて……」

「ん?」


 何やら言っているが、詳しくは聞き取れなかった。


「……丸、私と交際してくれないかしら」

「交際って、あの陽の者だけが体験できる、キャッキャウフフ的なやつ?」

「偏見が過ぎる気もするけれど、まぁそうね」


 この時、俺の脳はある一つの解を導き出していた。

 これは嘘告である、と。

 

 俺は顔は普通で成績も平均程度、運動なんてもってのほかで、2次元に魂を売ったオタクである。こんな俺に告白してくるなんて相当な物好きか、嘘告以外にはない。そして、柚乃は美少女であり、陽キャグループの一員である。よってこの告白は陽キャグループの罰ゲームの嘘告である。(証明終了)(Q.E.D.)◼️


 さすが俺。ひぐらしの真相を当てられただけのことはある。たとえ嘘であったとしても、こんな俺なんかに告白させられるなんて可哀想な奴だ。……ぐすん。

 ちなみにここまで0.01秒。

 ともかく、ここで俺が取るべき行動はただ一つ‼︎


「もう無理しなくても良い」


 ダメージを受けているであろう柚乃に、優しい言葉をかけつつも速攻で断る。これこそが最適解だ。


「えっ、無理?嘘……」


 嘘告をさせられたことが相当ショックだったようだ。それもそうだろう。俺の顔なんて見たくはないだろうから、退散するか。そして、俺は屋上を去った。

 一方、残された柚乃は自分がフラれたということに、はらわたが煮えくりかえているのを感じていた。


「丸……貴方は私をなんとも思っていないのね……。もっとしっかり考えてくれるかと思ったのに……。私をフったことを後悔させてあげる、ウフフ」  


 そこには、不気味な笑みを浮かべる柚乃の姿があったのだった。












 次回『脅迫』

 何も書くことが無い……。

 お楽しみに‼︎


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