第175話 トンネルの開通式
「あれか!」
目の前に突如として現れた山。そして道の先は山の中へと続いている。これが例のトンネルに違いない。
なるほど。
近づいて見てみるとなかなか良く出来ている。
だがこれは……。
実際のところ、このトンネルは山を綺麗にくり抜いたといった具合の単純なものだ。
言うなれば補強などは全くされておらず、確かにいつどこで崩落してもおかしくはない。
現代日本の感覚から言えばあり得ない、というより怖すぎて誰も通ろうとはしないはず。
「サイ、これからどうする?」
「これがトンネル。初めて見たけど、なんだか怖くて不気味だよー」
「そうか、二人はトンネルが初めてなのか。確かに怖いかもしれないな」
まさか初めてのトンネルが事故現場とは。二人には何だか悪いことをしてしまったかも。
「そうだな。どうせなら修復ついでに補強もしてしまおうか。土石魔法の最終テストには持って来いだ」
「補強?」
「修理って、一体どうやって?」
「俺の考えを言ってしまうと、まず補強しながらトンネルの中を進んでいく。そうすると、おそらくどこかしらで崩落現場にたどり着くはずだ。そうしたらその余分な土砂を取り除いて補強をして修復してしまう。そんな感じにしようか」
「う~ん、サイの言っていることのイメージが湧かないわね。それに私たちの安全を確保しないと」
「それも考えてある。とりあえずやってみよう」
もちろん言わずもがな、ここで使うのは土石魔法と空間魔法だ。そして火焔魔法。しかしやや複雑な使い方をするしかない。だからこその『最終テスト』なのだ。
まずはトンネルの出入り口に立つ。
「最初に使うのは空間魔法だな」
俺は円柱状の空間魔法を発動させることができる。まずは出入り口より少し大きめに奥行10メートルほどそっくりそのまま『カット』した。
これでトンネルが少し広がった。しかし大切なのはそこではない。
「次は土石魔法だ」
今くり抜いたばかりのトンネル内部をそっくり粘土のような土で置換する。
「また空間魔法を使う」
これを駆使して先ほどよりも直径を少し小さくした円柱状の空間魔法で粘土をくり抜く。
といってもどれも一瞬の行程だ。
「仕上げに火焔魔法」
これで焼き固める。
「うん。まずまずだな」
トンネルは硬く焼き固められた粘土で補強されている。地下鉄を作る際のシールド工法から着想を得たものだが、とりあえず俺のイメージ通りの仕上がりだ。
「すごい……」
「わぁ」
今の様子を見ていた猫姉妹はポカーンと呆気に取られている。
「とまぁ、こんな感じだ。これを繰り返していけば落盤した現場までたどり着けるし、トンネルを再び開通させられると思うんだが」
「『とまぁ、こんな感じだ』じゃないでしょ! ほんっとーにサイは規格外ね。凄すぎるわ!!」
「凄いのかどうかはよく分からないけど、まぁ、せっかくだから修復してしまうぞ! それじゃあ、ユエは灯ろう石をひたすら充電してくれ。ノエルは火焔魔法を頼む」
こうして崩落現場の土砂も『ディメンション・カット』で取り除き、長さ40メートルほどのトンネルは見事に復旧した。ユエが置いてくれた灯ろう石のおかげで暗いトンネル内の様子がよく分かる。
だが、単に開通して終わりではない。
「さて、最後に残ったのは下の整地だ。これをやって終わりにするぞ」
そう、空間魔法はイレギュラーな形には対応してくれない。円柱状にくり抜いたため、地面も円形にえぐられてしまったのだ。
これを土石魔法で整えていく。
地面を平坦にして、これにてトンネルの復旧作業は無事に完了。ついでに微妙にトンネルの直径も大きくなった。
今回は人助けをしただけに過ぎないのだが、実はその過程で有益な “発見” もあった。
この一連の作業で問題となったのは火焔魔法で粘土を焼き固める作業だ。これの安全性の確保と作業効率の悪さが気にかかっていた。
しかしトンネルの出口が見えてきた頃、ふとある考えを思いついた。
すなわち【土石魔法と火焔魔法を併用できないだろうか?】という点だ。
思い返せば放水魔法と火焔魔法を併用することでお湯を出すことができる。これを踏まえると、燃焼して焼き固めた状態の粘土をいきなり出すことができるのでは、そう考えたのだ。
これがビンゴ!
結局、ノエルの仕事がほとんど無くなってしまったが、これでトンネルの最後の方は一瞬でケリがついた。
いざやってみると当たり前のことに過ぎないが、これがどうしてなかなか思い浮かばなかったのが摩訶不思議。
残念ながら、ノエルもユエも俺と同じことは出来ないようだった。
だが、この対処法には心当たりがある。
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