第174話 オールバイ・ディスカウント


 ラティアスの中心部に戻ってきた我々は、さっそく買い出しに出かけることにした。それと見物がてらの散策、つまりは観光だ。


 それなりに大きな街なので市場も見応えがある。

 この辺りの中心都市なのだろう。


 食料品や家具、色とりどりの布地など、ありとあらゆる店が軒を連ねる。


 サンローゼの雑貨屋でスキルを習得できる遺物を買ってから、とくに売られている品々については注意を払ってきた。


 しかしこの街にある雑貨屋でもアンティークは売られていないようだ。やはりあの店が異常だったに違いない。


 「ねぇ、あれって……?」


 ふと指さした方を見ると、これまで見たことのない謎の店がそこにあった。


 だが、品物には見覚えがある。


 あれは『灯ろう石』そのものだ。


 この石は電撃魔法を使って電気を注入することで光り輝く効果をもつ。一旦魔力で充電すれば数時間程度は効果が持続するらしい。


 今までは『トーチ・ファイヤー』やたき火などで灯かりを作っていたが、こちらの方が良さそうに思える。そして光も優しい色合いなのに明るいときた。


 肝心の寿命だが、これが思ったよりも短く、半年ほど使い続けるとダメになってしまうとのこと。石なのにこれは意外だ。


 まぁ、半年も使えれば御の字なんだが。いかんせん元が石だから、それこそ永久に使えればそりゃ便利なのだろうが、それだと商売あがったりになってしまう。


 うん決めた。これを買おう。しかもたくさん。

 店員のおばちゃんに訊いてみる。

 「これっていくらですかね?」


 「これはね……。この辺りの小さいのは1個500クラン。こっちの中くらいのは800クラン。奥にある大きいのは1500クランになるよ」


 なるほど。思ったよりも高いかもしれない。


 「ちょっと高いわね」


 「そうだね、お姉ちゃん」


 ノエルとユエがひそひそ話をしている。


 そうだな。


 だが、これは使える。野営だけでなく、宿の部屋の中に置いておけるし、火を使わないから安全だ。それに何より、常に魔力を供給しなくても使えるのが大きい。


 希少な鉱石で他の場所からはほとんど見つかっていない、か……。


 やっぱり買うしかない。


 「ちょっといいか? もしここに置いてあるのをすべて買うとしたら一体いくらになる?」


 「えぇーー!!」


 「ち、ちょっと、サイ、何言ってるの?」


 「そうだよ。かなり高いんじゃ……」


 おばちゃんに聞かれないよう、こちらも小声で返す。

 「いや、これは十分に価値があるぞ。俺は買おうと思う」


 「そうね。サイがそうまで言うんなら、いいわ。というより、お金のほとんどはサイのものだし反対する理由も無いわね」


 そんなことを相談していると、おばちゃんが商談を決めたいと言わんばかりに条件を持ち掛けてきた。


 「もし本当に全部買ってくれるんなら、そうだね、1割引きするよ」


 交渉としてはそれほど悪くない条件だ。


 「それはありがたい。だが、もう一声たのむ。1割5分!」


 「う~ん。どうしようかねぇ…… って、お前さん達、もしかして大火災を消した英雄じゃないか! これで決まりだ。その値引きで売るよ」


 「よしっ! 取引成立だな」


 助かった。火を消したことで昨日から得することばかりだな。


 「ちょっと待っておくれ。今、金額を計算するからね」


 こうして38個の灯ろう石を金貨の山と引き換えにして手に入れた。


 さすがにこの街では顔が売れてしまったから、良くも悪くも目立ってしまう。


 それは好みでは無いということで、買い物が終わり次第、そそくさと街を後にする。


 目指すはトンレカップ湖。


 少し標高を上げたところに位置するらしい。


 ひたすら三人で山道を進んでいく。

 普通に空を飛んでも良かったのだが、みんな歩きたい気分だったのだ。


 それに自然度は高いが、あまり強い魔物は出ないらしい。


 「すごく山が深いね~」


 「ユエが言う通りすごい場所だわ。でも不思議と道は立派だけど」


 「確かにその通りだな。周りの景色と比べるとやたらと道がいいな」


 おやっ?


 向こうから荷馬車がやって来た。


 不意に荷馬車が止まった。


 「君たち、この先へは行けないよ。通行止めだ」


 「そうなのか。俺たちはずっと先まで行きたかったのだが」


 「残念だが、そいつは無理だ。もう少し行けばトンネルが見えてくる。その中で土砂崩れが起きて、とてもじゃないが通り抜けるのは不可能だ。引き返した方がいいぞ」


 「そうか、情報をくれてありがたい。ちょっと休んでからそうするよ」


 「それじゃあな!」


 ……ということで荷馬車は去ってしまった。


 う~む。

 土砂崩れ、しかもトンネルの中か。


 これは厄介だな。


 「どうする、サイ?」


 「そうだな。とりあえずトンネルまで行ってみて様子を見てみるか。仮に男の言う通りでも俺たちは空を飛べるだろう?」


 「確かにそうね。そうしましょう」


 ということで、崩落現場を目指してそのまま歩みを進めることにする。






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