第176話 火焔魔法をレベルアップ!!


 トンネルを抜け出した俺たちはそのままひたすら歩みを進める。目指すはトンレカップ湖だが、何も俺はわざわざ風光明媚な湖を見るために予定を変更した訳ではない。



 「サイ、この道は右へ進むんじゃない?」


 「いや、こっちで大丈夫だ。ちょっとだけ寄り道だ」


 「よりみち??」


 そう、道の分岐で湖の方向ではなく、あえて逆方面へと進路を取ったのだ。


 そのまま30分ほど歩いた頃合いだろうか。

 道脇に広々とした空き地が現れた。


 ここか!


 「地図によると、この辺りに『火焔魔法』の石碑があるはずなんだが……?」


 「火焔魔法? でも私たちみんな持ってるわよ?」


 「あっ、あそこだよ! 見て!」


 ユエが指さした方向を見ると、確かに空き地の奥まった場所に石碑が立っていた。


 ここは田舎も田舎。

 それこそ人っ子一人いない山の中だ。


 まさに俺が求めていた絶好のシチュエーション。


 あまり人に見られたくないから好都合この上ない。


 実はラティアスの街の郊外にも火焔魔法の石碑はある。


 だが、そもそも論として、火焔魔法は基本中の基本の魔法だ。


 それを『英雄』である我々がわざわざ見に行くということ自体がきわめて怪しい。なので、近い石碑を見に行けばいいという話でも無かった。


 もっとも『隠蔽』のスキルがあるから、その辺りもごまかせたかもしれないが、念には念を入れておく。まだ隠蔽スキルも使いこなせているとは言い難いからな。それに声を出すとダメだ。


 「ノエル、ユエ。二人の火焔魔法の資質は何だったっけ?」


 「私は日常系が中級で戦闘系が上級よ」


 「どっちも中級だよ」


 そうなのだ。普通はこの資質が変化することは無いらしい。だが、彼女らは俺のパーティーメンバーなのだ。上級はともかくとして中級程度の資質ではちょっと厳しい。


 「今から資質を上げるぞ。ミナスでやった通りだ」


 「なるほど。これで資質が上がれば大万歳ってわけね」


 「誰もいないし、ここなら魔法も試せるね~」


 「そういうことだ。それじゃ、さっそくやるぞ!」


 言わずもがな俺の資質はいずれも【超級】。

 これがランクアップするとは考えにくい。


 だが、姉妹の資質はアップするに違いない。

 この石碑がちゃんとしていれば……。


 こんな山奥の石碑が機能しているかが問題だが、ひとまずやってみよう。


 さっそく、とりあえず石碑を眺めてみる。


 シーン。


 やはり何も起こらないか。


 じゃ、手をつなぐか。


 「それじゃ、手を繋ぐぞ」


 「「うん!」」


 「よし、じゃあ、今度はステータスを確認してみてくれ」


 「「ステータス・オープン!」」


 「やった。サイの思惑通り資質が上がってるわ。それぞれワンランクアップよ。特級と上級」


 「私もそれぞれ1ずつ上がってる~。やったー!!」


 「よし、予想通りだな。火焔魔法はよく使う魔法だから、早めにレベルアップできて良かった」


 「相変わらずサイの力は凄すぎるわ。こんなことが出来るだなんて」


 「それはそうと、さっそくテストをしようか。とりあえずこの空き地の反対側に向かってファイヤー・ブレードを出してみてくれ」


 「『ファイヤー・ブレード』ってアレよね? 確か『シルバーメタル・アリゲーター』を倒すのにサイが使った魔法」


 「そうだ。剣のように炎が長く伸びるイメージをすれば出せるはずだ」


 「う~ん、こんな感じよね」


 ドシューッ!


 うん。いい具合だ。ノエルの手から炎が数十メートルほども伸びた。この火力なら実践でも十分に使えるな。


 「すごい、お姉ちゃん。私も!」


 ドシュー!


 うむ、悪くない。やや短く細いが、これでも普通の魔物程度なら問題なく倒せそうだ。


 しかしこれで終わらなかった。


 二人とも興味津々といった様子で俺を見つめてくる。


 これはアレか。俺も『ファイヤー・ビーム』を撃てということなんだろうな。

 「はやくサイもやってよ~」


 「仕方ないなぁ。たまには全力を出すか……」


 バァシュワーーーーーーーーーー!!!!!!!


 ん……?? あれっ????










 ♦♦♦♦♦♦

 



 あとがき


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