第169話 沼を封鎖・隔離せよ!
調査隊は我々3人を抜いて十数人といったところだ。荷馬車が2台もあることを踏まえると、思ったよりも人数は少ない。
もしかすると人を厳選することで、極秘情報が外に漏れるリスクを下げようとしているのかも。
それはさておき、距離はそれほど大したことが無いのですぐに現場に到着だ。
「本当に火が消えたままならいいけど」
確かにノエルの言う通りだ。
本当に心からそう願う。
だが、おそらく問題はないだろう。
ギルドの高見櫓からの確認では煙が消えているのだからな。
◇
現場近くに到着すると、道脇に馬車を停め、いよいよ沼を目指して歩いていく。この段階では荷馬車はそのままだ。
「おおーー!! すごい。本当に火が消えているぞ!!」
「やったぞーー!!!!」
大声が響き合う。
女性のギルド職員は互いに抱き合い、男衆は肩を組みながら喜びを分かち合っている。見ているこっちも幸せのお裾分けのようで、ホロリと来てしまう。
何しろ過去二年間も街の最重要課題として君臨してきた懸念事項がついに消え去ったとなれば、この喜びようも納得できる。
だが、ギルド長のケインと数名の職員は眼光鋭く沼とその周辺を観察している。
さすがだ。
彼らだけは目の前の光景を見ても浮かれることはせず、まずは現状の確認と鎮火の確定を優先させている訳だ。
「どうだ?」
ケインが職員に声を掛けている。
「これは……、消火で大丈夫でしょう。鎮火です。おめでとうございます、ギルド長!」
「よし。ヨシッ! やったぞ。ついに消えたぞ」
遅れて喜びをかみしめるギルド長。
「君たち、本当によくやってくれた。正直、高見櫓からの報告はにわかには信じられなかったが、こうして自分の目で確認して、ようやく現実として受け入れることができたよ。本当に、本当にありがとう」
ケインの目には涙が浮かんでいる。
「いや、俺たちは依頼を受けて遂行しただけだ。礼には及ばない」
「サイの言う通りよ。でも、私たちは依頼をきちんと達成できて良かったわ。街の皆さんも喜んでくれているみたいだしね」
「良かったよ。本当に良かった~」
それから現場検証が始まった。
これはどういうことかと言うと、我々がどうやって水面から燃え盛る炎を消したのかという点の事細かな説明だ。
だが、我々は大規模な空間魔法を展開することで消火をしている。この事実が露呈しないよう、うまい具合に煙に巻かねければならない。これが難しい。
「……君たちは土石魔法で消火をしたと聞いている。とすると、これだけの規模だ。かなり上位の資質を持っているに違いない。そうだろう?」
いきなり嫌な感じの質問だが、まぁこれ位は想定の範囲内だ。
「そうだ。ここだけの話だが、俺は何を隠そう『特級』の資質を持っている。ここにいるノエルとユエは二人とも『上級』だ。実演するのは遠慮したいが、とにかく三人いれば辛うじて消火は可能だった」
「そうか。それは凄いな。予想以上だ。上級はともかくとして、特級なんてほとんど目にしたことは無いぞ」
「それでこの岸辺に残っている土の塊がそれだ。見ての通りこいつは粘土で、あえて火や熱を遮断するような土質のものを放出したんだ」
「う~ん、なるほどな。確かにこれは粘土だ。これほどの量が残っているとなると、確かに消火はできるか……。手間を取らせたな。ありがとう。聞き取り調査はひとまずこれで終わりだ」
よかった。とりあえず納得してもらえたようだ。岸辺には目止めに使った粘土を残してある。沼にもいくらかの粘土を放り込んであるから、もし沼の中を引っ掻き回されたとしてもその点は何とかごまかせることを祈ろう。
それからは大忙しだ。
といっても、我々は何もしていない。
「俺は資材の搬入路の確保をするぞ!」
「こっちは報告ののろしを上げます」
うん? のろし、だと?
「のろしを上げても大丈夫なのか?」
「もちろんそれは気にしているよ。引火が怖いから道まで戻ってからだ」
なるほど。当然と言えばそうだが、この一筋の煙が喜びの合図になるんだろうな。
ケインによると夕方までには塀と小屋が完成し、今日から警備がスタートするらしい。う~む、迅速な対応だ。
数人の職員が現場を離れた頃合いを見計らって、沼を調査していた男が「話がある」と言って我々とケイン、そして鑑定士をこっそり呼び出した。
目立たない場所に移動したところで男は袋から何かを取り出し始める。
「これを見てくれ」
「「「おおおーー!!」」」
「わぁ!」
「これは……、もしかしたら魔物の下あごの骨か?」
驚きと安堵の表情を浮かべながら、ケインが口を開く。
目の前にあるのは確かに下あごの骨で、一対の尖った長い歯がよく目立つ。
どうみてもこいつの持ち主は肉食系の魔物に違いない。
「やはりサイ君の仮説は正しかったようだな」
もちろん今回見たことは極秘中の極秘。
他言無用だ。
俺の中では頂いた金額に似合う情報を提供できていたのかどうか気になっていたが、その心配は杞憂だったようだ。
こうして調査の第一段階が終わったところで我々は解放されたが、鎮火記念祝賀会に参加するため街へと戻ることになった。
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あとがき
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