第170話 祝賀会で我々は伝説となった


 街へ戻る途中の段階で、既に我々は異変に気付き始める。


 「君たちが火を消した英雄か! ありがとう、ありがとう!!」


 「すっごい仕事をしてくれたな。とにかく素晴らしい!」


 「本当に助かった。ありがとう。これで街は平和になるぞ」


 「ワタシは今、モーレツに感激しているッ!!」


 これは……。


 もしかしなくても俺が思っていたよりも大きな『事件』になっていたりするのか?


 まぁ確かに誰も消せなかった火災に違いないが、それほどの案件だったとはビックリ仰天だ。


 街に近づくにつれ道の両脇に人がポツポツと立ち始め、我々に向けて盛大な歓声を上げてくれる。


 どうやら沼の近くで上げた『消火に成功』を意味するのろしが無事に機能していたようだ。しかしそれだけではこの状況は説明できない。


 これは普通ではない。

 どう考えても事前に話が広まっている。


 おそらくだが、のろしでの鎮火の情報が街全体に知れ渡っている。それも迅速かつ広範囲に。すごいな、ラティアスの街。


 ギルドに着く頃には大変な騒ぎになっていた。黒山の人だかりだ。家という家から人が外に出ている。


 「なんか大変な騒ぎになっちゃったわね」


 「うん。こんなに沢山の人を見るのは初めて」


 「まさか火を消しただけなのに、こんな大騒ぎになるとはな」


 「そりゃそうだ。この街で緊急かつ最大の課題が解決された訳だから当然だろう。本当にすごいことをやってくれたんだぞ、君たちは。本当に感謝の気持ちで胸がいっぱいだよ」


 「私からも礼を言わせてくれ」


 同席していた数人のギルド職員が補足してくれる。


 う~ん。


 俺としてはあまり大騒ぎされるのは性に合わないのだが……。

 とはいえ人助けは嫌いではない。


 ノエルとユエの満足げな表情を見ても、この依頼を受けて達成したのは間違っていないと思う。



 ◇


 「ここが今晩の祝賀会の会場だよ」


 街のメインストリートの中心部は広場になっているが、どうやらそこで祝賀会を開くらしい。


 「すごい会場ね。もう人でいっぱいだわ」


 「料理もたくさん運ばれてくるね」


 「随分と手際がいいんだな。火が消えたのが分かったのはついさっきのことだろう?」


 「そりゃそうさ。いつかこういう日が来ることを期待して、事前に細かく取り決めをしていたのさ」


 「ほう。そりゃ興味深い話だ。具体的にはどういう取り決めなんだ?」


 「見ての通り、昼間に鎮火が確認された場合はその夜に祝賀会を行うのが決まりだ。もしそれ以降の時間なら翌日だな。そして街の飲食店は『無償で』料理をすぐにこの大広場で提供する…… という簡単な話だ」


 「気前のいい話だわ。よくレストランの人が賛成してくれたわね」


 「いや、それはすぐに決まったぞ。何しろ街の重要問題だからな。それが解決したとなればどんちゃん騒ぎ間違いなしだ!」


 そんなことを話しているうちに、着々と準備が進んできた。


 「これはなに?」


 ユエが気になっているのは各テーブルや背の高さほどあるひょろっとした台の上に置かれている謎の石だ。


 見た目は白っぽい。少し透き通っているか。


 「これは『灯ろう石』さ」


 「「灯ろう石?」」


 「あれっ。君たちは見たことないのか。これは夜の灯かりにするんだよ。ほら、こうして」


 そう言うと男は石を包み込むように手のひらを押し付ける。


 ……すると、次の瞬間には光はじめた。これは凄い。見事なオレンジ色の灯かり。しかもけっこう明るい。


 「今、何をしたんだ? 手のひらを押し当てていたが」


 「これは電気を注入したんだ」


 「それって、もしかしなくても電撃魔法!?」


 ノエルが驚きの声を出したが、俺は驚きすぎて声すら出なかった。そうか。この石は電気を蓄えて光を放つのか。すごいな。ちょっと感動した。魔法にはこういう使い方もあるんだな。



 ◇


 いよいよ祝賀会の時間になった。現地調査をしていたギルド職員も最低限の数を残してこちらに参加しているようだ。


 ギルド副長のクリシュナが挨拶を始める。ケインはまだ現場に残って作業をしていて、残念ながら,こちらには顔を出せないようだ。


 「諸君、今日は記念すべき日だ。あの忌々しい火がついに消えた。この三人の英雄によって……!!」


 ここで盛大に観衆が騒ぎ立てる。

 それこそ、もう大騒ぎだ。


 これまでの鬱憤が溜まっていたのか、はしゃいでいる人もいれば大人しくしている方もおり。人それぞれに思いがあるように見える。


 ひとまず騒ぎが落ち着いた頃合いを見計らって、クリシュナが挨拶の続きを始めたが、フライングして酒に手を出したものが続出して、そのまま立ち消えとなった。


 俺たちは胴上げをされて大広場をグルっと一周し、豪勢な食事を楽しんだ。それなりに大きな街だけあって、肉、魚、野菜、果物のどれを取っても種類豊富でしかも美味いときた。


 さて、肝心の祝賀会だが、後半は酒で記憶を飛ばしてしまい、何が起きたのかよく覚えていない。ノエルも俺と同様だ。


 だが、未成年で酒を飲んでいなかったユエの話によると、いろんな人と肩を組み合って踊り、食いのどんちゃん騒ぎだったらしい。


 う~む。まったく覚えていないぞ。


 そして、ユエによると、締めの挨拶にて記念日を祝うために記念碑を置くことが発表されたとのこと。


 どうやらこのラティアスの街で、俺たちは伝説となったらしい。何だか凄いことになってしまったな。まぁ、俺としては街の問題を解決して、金を貰って、みんなが喜んでくれたのだから言うことは無い。


 予定外の出来事が重なり少し遅れてしまったが、次はいよいよお待ちかねの電撃魔法を習得せねば!









 ♦♦♦♦♦♦

 



 あとがき


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