第168話 現地調査って、何もそこまでやらなくても。それにしてもすごいな
石油の沼から引き揚げた古代の魔物の頭骨はかなりの高値で買い取ってもらえた。
もちろん、これは事前の宣伝が重要だった。仮に普通の素材として売り込んだだけなら、おそらく半値にもならなかっただろう。
俺は上手い具合に風呂敷を広げ、見事に売り値を釣り上げることに成功したのだ。
さらには探偵よろしく、沼に眠ったお宝について名推理を開陳している。もし俺の仮説が正しければ、負債となっていた石油沼が一転して、金の卵を産む鶏に化けるはず。
これはギルドや街の今後の再建にも大きな光になるだろう。
だが……、そもそも俺はこんな崇高な考えを思い付くほど頭が良くない。
ネタ晴らしをしてしまうと、実は今の話の数々はネット動画から着想を得ていたのだ。
その動画ではロサンゼルス郊外にあるタールの沼を特集していて、先ほど話したような独特な生態系が構築されていたという。
残念ながら、その動画の受け売りだ。
今回の『ポセイドン・ライノ』の頭部の代金は即金でその場で受け取った。
何でも、あまりの金額の大きさに通常ではギルド内での会議が必須な案件だが、今回はその重要性に鑑み、ギルド長の裁量で決済できる特別な資金源を使っているという。
まぁ金の出所にあまり興味はない。
我々としては出すものを出して、受け取るものを受け取れれば、それで満足だ。他に言うことは無い。
◇
さて、再びギルドの受付に戻ると大きな騒ぎになっていた。
何やら外が騒がしいので我々も様子を覗いてみることにする。
「わぁ。大きな荷馬車だね」
「すごい。柱やら板やら大量に積み込んで。こんなの調査に必要なのかしら?」
この話を聞いていたギルド職員が説明をしてくれる。
「こいつらは必要な物資だよ。あの池の近くに小屋を建てるんだ。それに柵をしてひとまず池の周りを完全に囲ってしまう訳だ」
「なるほど、これはそういう物資なのか。しかしそれは防犯目的ということなのか?」
「もちろん。せっかく鎮火したのなら、また火が付いてしまうなんてことはあってはならないだろ。調査開始と共に現場は封鎖だ。もちろん警備員を常駐させる。とくに詳しい調査が終わる前は厳重にするさ」
「それは大変だわ」
「だろ。でも、こうでもしないとな。実際のところギルドや街はこの火事のせいで大損したんだ。あの池をすぐにでも埋めてしまった方がいいくらいだ」
……と言ってから、何やら小さな声で耳打ちする。
「だがな、ここだけの話、どうやら池は封鎖しないらしい。蓋をすると聞いていたんだがな。これは上からの命令のようだが、事前の打ち合わせとは予定が違うから奇妙なんだ」
どうやら本来ならば池に蓋をしてしまう算段だったらしいが、それが変更になったとなると、やはり原因は俺たちが見つけた魔物の残骸にあるとしか考えられない。
「その『事前の打ち合わせ』というのは?」
「簡単に言えば、鎮火した後にどうするかという段取りのことだな。この物資の山を見てくれ。今の一瞬でこんなに集められると思うか?」
「いや。そう言えば確かに手際が良すぎるな」
「だろ。これら全ては倉庫に保管されていたんだ。この荷馬車もそうだな。いざとなったらすぐに手配できる算段だ」
「それが随分と手際の良い理由なのね」
「すごい~。こんなに沢山の木材が蓄えられているなんて!」
「実はそうなんだ。でも、君たちが鎮火してくれたお陰だから我々は大変感謝しているよ。ありがとう」
本当に段取りがよく、もう出発できそうとのこと。
我々も用を足して、いよいよ現地へ向けて再度出発する。
火はきちんと消えたはずだが、よもや消えていなかったなんてことは無いだろうか。実は種火がくすぶっていて……、なんてことはあって欲しくない。
それよりも我々が土石魔法で火を消したという理由が現地調査の後でも通じるかどうか。そっちの方が気がかりだ。その言い訳が通用してくれないと困るのだが。
そんな不安と期待が入り混じる複雑な心境の自分をよそに、お祭り騒ぎの中、いよいよ調査隊は沼へと旅立つ。
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あとがき
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