第133話 予期せぬ再会劇


 俺はギルド会館にやってきた。特に用事も無いのだが、もしかすると面白い常設依頼があるかもしれないと思い立ったからだ。まだ、Cランクに上がっておらず、討伐依頼は受けられないのだが……。


 ここに来るのも久々だ。

 なにせアンラの家で2週間以上も世話になったのだから。


 久々に受付に顔を出すと、エリナ嬢が出迎えてくれた。


 「サイさん! ご無事だったのですね。最近は顔を見ていなかったので心配していましたよ! それとお客人がお待ちです! すぐ奥に行ってみてくださいね!!」


 はて、俺を待っているお客とは一体どなたなのだろうか?


 もしかするとギルドの偉い人だったりするのかもしれない。


 そうなると厄介だ。


 もしかすると、わざわざ会おうとする理由がシルバーメタル・アリゲーターの1件かもしれないし、カディナ辺りから俺の素性を探ろうとしているのかも……。


 う~ん、そいつは困る。


 だが、奥に行ってみると、全く想像もつかない展開が待ち受けていた。


 「えっ!?」


 素で驚きの声が出てしまった。


 「ノ、ノエル!? それに、ユエじゃないか!!」


 やっぱりそうだ。

 しょんぼりしている様子だが、ネコ姉妹に間違いない。


 「サイ!? やっぱりサイよね!?」


 今の一瞬で二人の耳がピンと立った。


 「よ、良かった~。無事で本当に良かったよ~!」


 ユエは再会がよっぽど嬉しかったのか、安心したのか、とにかく涙を浮かべている。


 う~む、どうやら知らぬ間に二人にはいらぬ心配を掛けてしまっていたらしい。


 これはビックリ仰天だ。

 そもそもなぜ二人がここにいるのだ。

 里からは大分離れているのだが……。


 しかもエリナの口ぶりでは結構前からいるような雰囲気だったが、一体全体どういうことなのだろう。


 「久しぶりだな、二人とも。まさかお客がノエルとユエだなんて思わなかったぞ」


 「まったく心配したわよ。私たちは1週間もサイを待っていたんだから!」


 今度はいかにもプンプンといった素ぶりで語りだす。

 そうか、1週間も俺を待ってくれていたのか。


 「まさか1週間もギルドにいたのか? 二人とも?」


 「そうなの。サイが泊まっていた宿に私たちも宿泊して、昼間はずっとここで待っていたの。宿のおばさんがずっと戻ってないって話してくれて、私、心配で、心配で……。グスっ」


「えぇっ! それは申し訳ないことをしたな。ところで何か大変なことでもあったのか。里は大丈夫なのか?」


「サイが去った後はお祭りのような騒ぎになったわ。だって、例の紙を置いていったでしょう?」


「あぁ、そうだな。そうか、あの『例の紙』を里の皆に見せてくれたのか。それは良かった」


 「そのおかげで私たちは体術面でも魔力面でも格段に向上したわ。だから我々姉妹もギルドの昇級試験を受けたの。結果はもちろん合格よ!」


 「私がC級でお姉ちゃんは何とB級なんだよ!」

 ユエが補足してくれる。


 「おぉ! 凄いじゃないか二人とも。そうか、その報告をしたかったんだな」


 「えっとね、サイ。私たちは里を出て、あなたに付いていくことにしたの。突然だけど、構わないかしら??」


 はいっ!?


 これは全く予想外の言葉が返ってきたぞ。

 どういうことだ。

 俺に付いてきたい、だと!?

 寝耳に水の話で、ちょっと頭の理解が追い付かない。


 「ちょっと待て。そもそも、あれだ、里を出ても良かったのか?」


 「それは大丈夫。里ではB級の冒険者は独り立ちが許されているの。オオババも許してくれたわ」


 「そうなの。私はC級だけどお姉ちゃんと一緒だから、問題ないって。あとサイさんもいるからオオババのお墨付きが出たの」


 そうか。そういうことか。


 「B級、それにC級か! 凄いじゃないか! 流石だな。そうか、俺に付いてくる…… か。なるほど」


 あまりにも突拍子もない提案で、まだ驚きを隠せないし、落ち着くどころではない。


 だが、これは俺にとっては非常に好都合というか、願ったり叶ったりの話だ。


 そもそも俺がノエルとユエと別れることにしたのは、里の人々の説得が困難だという点と俺が里に住みたくないという理由によるものだった。


 そして、自分が所持している謎の翻訳機能によって『魔力覚醒』を実はあの時に習得してしまったことを隠す意図もある。


 後者はともかくとして、前者の問題は二人自ら赴いてきたので解決されてしまった。


 まぁ、あれだ。


『魔力覚醒』については適当にはぐらかして、二人には開示できない他のスキルを持っていることにでもしておこう。幸いなことに魔力覚醒には謎が多い。俺が持っていることが露呈する機会はそう無いはずだ。


 「それはちょうど良かった。俺はこれからこの街を出て西へと旅をする予定なのだが、それで大丈夫か?」


 「うん、それでいい! やった~!!」

 「もちろん問題ないわ!」


 こうして俺は旅の友を手に入れた。

 いよいよこのサンローゼを発って、次なる新天地を目指すのだ。







 ♦♦♦♦♦♦

 



 あとがき


 えー、わりと序盤でネコ姉妹と別れてしまったことについてモヤモヤしている読者の方がいらっしゃるかもしれません。実は何を隠そう、作者もです(笑)


 ですが、ようやくご覧の通りの再会です。


 これは予定調和というか、仕様でして、元からこのようにする予定でした。


 何しろ本作は無能な限界中年、しかも彼女いない歴イコール年齢の寂しい男が主人公です。


 いくら異世界で魔法やスキルを得て多少なりとも自信が付いたところで、女の子二人を奪い去るほどの勇気と行動力が突然生まれるのは不自然だと考えたからです。


 もしそれほどのコミュ力があれば、前世ではモテまくりのはずなので。


 それに姉妹の里の人々があまりにも独特で面倒くさい(笑)

 失礼を承知で言えば、リアルならお近づきになりたくない類の方々でしょう。


 ということで、このような回りくどい方法を今回は取ってみました。



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