第132話 隠蔽すれば全てオッケー??
いつにもなく、俺は猛烈にソワソワしていた。
その理由は明らかだ。だって、そうだろう。何しろ、俺の体内におそらく魔族と同様の魔石があることに気が付いてしまったのだから。
あぁ、何という事だ。これは大変なことになった。
そもそも、こういう可能性があることについて、もっと早く思い至るべきだった。
後悔先に立たず。
もっとも、俺が魔族の存在を知ったのはつい最近のことだ。それこそカディナへと向かう馬車での会話でたまたま『魔族』の存在を知ったのだから、それほど時間差がある訳ではない。
そうは言っても、その間にスマート・ウルフの大群の殲滅やらインペラトール・トータスの討伐といった目立つ行為を行ってしまっているのだ。万が一にも俺の行動が捕捉されているだけでなく、あまつさえ俺の正体がバレていたとしたら……。これはとんでもないことだ。
う~む。俺は一応、人間として生を受けてこの世界にいると信じていたのに。
まさかそれが、忌み嫌われ、迫害の対象となっている魔族と関係があると周囲に知られてしまった暁には、俺はどうなってしまうのか想像もできない。いや、ほぼ間違いなく面倒な事態に巻き込まれてしまうだろう。
とにかく人から避けられるだけならまだましだ。最悪、拷問の末、処刑ということも十分に有りうる。
ちょっと流石にそれだけは勘弁だ。
だが、いざこういう展開になってみると、それはそれで思い当たる節があるのも事実。
どういうことかと言えば、単純に俺の記憶がそう語りかけてくるのだ。
具体的には、俺がこの世界に来る前の現地人としての記憶がゴッソリと抜け落ちてしまっているからだ。それは例えば村人Aの記憶でもいいし、下級貴族Cのそれでも良い。
要は、この世界で幼少期を過ごした記憶がまるで体に残っていないという問題がある。
実はその点が頭の片隅に残り続けていた。
もし現地人に転生したのであれば、こういうことは起きないだろう。だが、魔物となれば事情が違う。こいつらは突如として前触れもなく出現する。この世界では鳥は卵を産むが、それがヒナになることはない。鳥も魔物の一種だからだろう。だから、卵料理はあるものの、なぜこのような物体が出てくるかは住人の間でも謎に包まれていたのだ。
なるほど、これで点と点とが繋がった気がする。
◇
さて、それはともかくとして、この魔族の反応を丸出しにしてしまうのはあまりにもマズい。魔族の魔石が無いと俺の反応を感知できないはずだが、この状態をそのままにするのはリスキー過ぎる。
うん? 待てよ。
そうだった!
あまりの衝撃でうっかり忘れかけていたが、俺がブロドリオから頂戴したスキルの中に『隠蔽』というものがあった。
これで俺の魔族反応を消せたりしないだろうか。
「隠蔽!」
う~ん。
再度、『魔力感知』スキルで確認してみてもまだ反応が消えていない。
◇
どうやら周囲に魔族がいないことに安堵した俺は、ひとまず宿の部屋に戻った。とはいえ、まだ緊張感が完全に抜け切れていない。そりゃそうだ。
さてと……。
とりあえず、俺の体から放出され続けている魔族の反応は何としてでも早めに消してしまいたい。
だが、これは魔法に関わること。
思い当たる解決策となると、やはりこの『隠蔽』のスキルしか考えられない。
本件については、事が事だけに誰にも相談できないのが痛い。例えそれがブロドリオの紹介で会えるであろう伝道師であったとしても。いや、むしろ伝道師に正体が露呈してしまうことだけは絶対にあってはならないだろう。あまりにも危険だ。
目の前の机にはまだ魔族の魔石がポツンと置かれている。
慌てて飛び出したため、魔石の回収を忘れていたのだ。
そうだな。
俺はその魔石を手に取り、試しに魔力を感知するイメージをした。次に、それで感じる波長と同質のものを隠蔽する想像をしてみる。例えるならば同調するような感覚だ。
これでどうだ?
「隠蔽!」
……からの、
「魔力感知!!」
おぉーー!?
見事に魔力反応が消えている。
良かった。
本当に良かった。
今度こそ隠蔽スキルがちゃんと機能している。
ひとまずこれで俺は魔族と思われずに済むはずだ。
しかしこうなってしまっては、今後の身の振り方についてよくよく考えなければ。
それにしても、ただの舞踏会に参加したはずが、こうまで話が飛躍するとはな。
これが人生というものなのか……。セカンドライフだけども。
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