第115話 平民をいたぶるのは気持ちがいいですか?
「サイ、こんなことになってしまって大丈夫?」
アンラが心配そうな声を掛けてくれる。
「あぁ。一応は大丈夫だ。こういうこともたまにはある」
実際にはたまどころかしょっちゅうな気がするが……。
それはさておき、先ほどのオベロンの高らかな宣言により、続々と我々がいるホールの片隅に人が集まってきた。
厳密には俺たちの周囲を取り囲むように人垣が出来つつある。とはいえ、これはあまり芳しいことではない。むしろ最悪だ。
何しろ、ここに来ている方々は貴族など身分が高く、金を持っていて、しかもあまつさえ権力もある。あまり詳しくないが、おそらく客の大半はそんな類の人種だろう。そういう人々の前で決闘など、悪目立ちが過ぎるではないか。
それに決闘の行く末によっては、アンラの家にも迷惑を掛けてしまう。
ここにあるのは『貴族 VS 平民』という図式。
単なる個人と個人のぶつかり合いでは決してない。
もはや家と家との争いを超えてしまい、もっと大きな見えない何かしらの対立が起ころうとしている。
仮の話、もしここで俺を応援してくれる貴族様が多少なりともいれば気持ちは落ち着くが、残念ながらほぼ間違いなくそうはならない。当然のことだ。俺を応援するメリットがまるで無いのだから。そんなことは猿でも分かる。残念だが、そりゃそうだろう。
さらに悪いことにギャラリーが見たいのは平民が勝利することではない。むしろ、この屋敷の主の一人であるオベロンが平民をいたぶる様を見ようと集まってきた訳だ。
とはいえ、この決闘はアンラと彼女が背負うフルストファー家の名誉に関わることだから、手を抜くことはできない。そしてこの目障りな奴をやっつけてしまいたいという俺自身の気持ちもある。
以上を踏まえると、ここで無様な負けをして醜態をさらすのは論外だ。きれいな勝ち方で相手には矛を収めてもらいたい。そもそも向こうから吹っかけてきた勝負だしな。
ただし、もっと大きな問題が立ちはだかっていることは否定できない。それは相手のプライドの問題だ。いや、相手だけの話ではない。この一部始終を見ることになる観衆の目も重要だろう。結局のところ、相手が負けを認めざるを得ない状況を作り出すほかない。
しかも貴族相手に怪我をさせたら後でどんな報復をされるか分からない。ということは、あくまでも奴が無傷で生還するという条件付きだということ。これは絶対条件だろう。
う~ん。これは厳しい。
以前の里で行ったラート相手の模擬戦と課されている条件は似ているが、その難易度の桁が大幅に上がってしまっている。まぁ、どう考えても最難関レベルだな(笑)。
そんなことを走馬灯のように目まぐるしく考えていると、オベロンは執事に何かコソコソと耳打ちをした。
「えっ!? オベロン様、僭越ながらいくら何でもそれは……!?」
「いいから構わん。それも早く持ってこい。何っ!? そんな心配はするな。俺がいいと言っているんだ。責任は俺が取る!」
「はぁ。そう申されるのでしたら、用意いたしますが……」
「急げ! ボケっとするな。早くしろ!!」
詳しい内容は聞き取れなかったが、何やら不穏なやり取りが交わされていた。
いやいやいや。
この流れだと、アレか。
ものすごい武器を持ってきて俺を圧倒する。
さしずめそういったところだろうな。
つまり技量などはどうでも良くて、とりあえず武器の力で『横綱相撲』を取りたいということか……。
本当にどこまでも汚い貴族様だな。
さてと……。
あり得ない位の超が付くほどの高難易度のミッション。
しかも逃げることが許されないときた。
こっそりと魔法とスキルを使うにしても、うまく立ち回らなければどちらかが怪我をしかねない。
さぁ、どうやってこの難局を乗り切ったら良いだろうか??
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