第116話 いざ尋常に勝負!
「言わずもがな決闘には武器が必要だが、どうやら見たところ、お前は持っていないようだな!」
このオベロンとかいう貴族が嫌味たっぷりでそう高々と口にする。
いやいや、舞踏会に武器を持ってきたら逆に問題になるだろう。
あっ。ひょっとしたらアレか。
こういう時のために馬車にお気に入りの剣でも積んでおくのが貴族の嗜みなのだろうか?
まぁ、この際どちらでもいい。
「そうだ。俺は武器は持っていない。何しろここは舞踏会の会場だからな。武器を持ち込むのは相応しくない、そう思ってな」
「殊勝な心掛けだ。しかし武器を取ってもらわないと決闘にはならん。そこの壁に掛けてある剣から好きなものを取れ! な~に、心配せずとも、壊しても構わんよ」
そう言いながらニヤッとしやがった。
こいつ。武器を貸してくれるのは有難いが、この期に及んで自分の武器の心配か。なるほど、平民風情の命よりも武器の方が重いということだな。だんだんとムカムカしてきたぞ。
見たところ、それなりの剣が5本ほど飾られている。
一通り『鑑定』してみたが、あまり実用的な代物ではなさそうだ。事実、これらは所詮、お飾りに過ぎないのだから。それに加えて切れ味も悪いときた。
とはいえ、この中から選ぶという選択肢しか無いので、見た目で切れ味が良さそうなものを選定した。
「ちょっとサイ。本当に決闘するの? やめた方がいいんじゃない? 今ならまだ間に合うかも……?」
アンラがコソコソと小声で相談してくるが、もう遅い。既に俺の中では戦うことに決めている。この生意気な貴族をぶちのめしてやる。
それにここまでの大事に引き上げたのは言うまでもなくオベロンその人。つまり、俺が拒否できるような状況ではさらさらないのだ。仮にここで決闘の中止を申し入れたらその時点でアンラの名誉にも傷が付いてしまう。それは流石に申し訳ない。
「ほほう。そいつを選んだか。貴様にはその武器に相応しい結末を与えてやろう!」
う~ん、一体どんな結末なんだか。まぁどうせ、ろくでもない終わり方に決まっている。
しばらく経ってから、ようやく執事がゆっくりと戻って来た。後生大事に何かを抱えている。わざわざ布に包まれた状態で持ってくるということは、やはり普通の武器ではないのだろう。代々伝わる家宝とか、そんなところか。
「遅いっ!」
オベロンは随分とお怒りのようだ。
この感じだと俺以外にも態度が悪いとみえる。もしかするとフランボワーズ家の中では肩身が狭い思いをしているのかもしれない。むしろ鼻つまみ者になっている可能性すらある。
さて、執事が持ってきたのは2種類の剣。片方はいかにも実用的で強そうな一品だ。典型的な長鋼形の剣。おそらく有名どころの鍛冶屋が打ったものだろう。
それに対してもう片方の剣。これってもしかすると魔剣なのかもしれないな。いかにも古風な外見だ。持ち手の上の方に魔石のようなものが見える。
鑑定。
ビンゴ!
そうか、これが『魔剣』なのか。初めてみた。ずいぶんと仰々しいというかド派手な剣だ。刃の部分にも絵柄が彫られている。
うん、少なくとも俺は使いたくない。
というか、趣味が悪いな。
「さて、そろそろ決闘を始めるか。皆の者、我がオベロンの剣捌きをしかとご覧あれ!!」
何が「そろそろ」だ。お前の剣を待っていたのはこっちだぞ。
それにしてもどうやら、いよいよ本当に決闘が始まるようだ。
果たしてこの難局をどうやって乗り切るべきか。
Eランク冒険者に課せられたにしては重い使命だ。
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