第114話 えっ、今度は決闘ですか……!?


 「ちょっと、サイ。これから挨拶周りをするわよ。しっかり付いてきなさい!」


 そうアンラに手を引かれながら、いかにも上流階級な見た目の貴族様に次々と挨拶をしていく。とはいえ、俺は横に立って必要なタイミングだけ最低限の挨拶をするだけだ。


 基本的にはアンラが的確に対応してくれているので助かっている。そもそもの前提として、貴族では無い俺がしゃしゃり出ていくのは何かしら問題が起きそうな気がするからだ。そして当たり前だが、この中に誰一人として知り合いなどいない。


 だが、そうして大方、この挨拶周りが終わりそうな最中に事件が起こった。


 この屋敷の主であるブロドリオの腹違いの弟のオベロンが俺の素性を聞いた途端、激高し出したのだ。


 「貴様、我がフランボワーズ家を舐めているのか? 本当に貴族でないなら、よくもまぁ、図々しく我が家の敷居を跨いだものだ。その分際で由緒正しい舞踏会に出席とあらば、世間知らずにも程がある。にわかには信じられんな。我が家に相応しくない。すぐにでも退場願おうか!」


 お、おう。


 いかん、またもや問題発生だ。

 しかも理不尽度がなかなかに高い案件じゃないか。


 さて、どうしたものかと思っていたら、アンラが反撃を開始した。


 「僭越ながら申し上げます、オベロン様。この者は私のパートナーであり、我がフルストファー家の代表として考えて頂きたく存じます。つまりはこの者を侮辱するということは、我がフルストファー家をも侮辱することになりますが、今の発言を取り消しては頂けませんか?」


 そう静かに怒りを押し殺しながら丁寧に話すアンラ。

 彼女を見ているとこの男に対して猛烈な怒りがこみ上げてくる。


 「ふっはっは! 何を言うかと思ったら、そんなことか!! 確かにそ奴は代表かもしれんが、フルストファー家は平民風情しか踊る相手がいない落ちぶれ貴族の面汚しということではないか!」


 う~む。


 まぁ、あれだ。


 言っていることは、侮辱・名誉棄損・罵倒・その他諸々のオンパレード。

 全くもって聞き捨てならない。

 擁護できる余地など皆無。


 だが、悔しいことに『平民風情しか踊る相手がいない落ちぶれ貴族』というのは傍から見るとまさにその通りに見えてしまうだろう。残念ながら、その点については正しいと言わざるを得ないかもしれない。けっして認めたくはないが……。


 「ですが、オベロン様。この者は強靭さと卓越さを身に付けた逸材です。その点は申し添えさせて頂きます。無礼を承知でお尋ねいたしますが、今のご発言の数々はフルストファー家を代表したものでしょうか? そして、フランボワーズ家は中身ではなく、家柄や家系しか重視しないのでしょうか?」


 こんな厳しい状況なのに、アンラがまだ粘ってくれている。


 正直、この類の面倒な相手に粘着するのは損するだけだから、ここはもう潔く手を引いてくれてもいいのだが……。どうやら彼女の『家』だけでなく俺のことも侮辱されたのが癪に障ったようだ。


 「ふっ。今は主催の兄は所用で席を外しているから、責任者はこの私に相違ない! そしてEランク冒険者ごときが『強靭』だと!? 笑わせてくれるじゃないか。冗談を言うセンスだけは褒めてやろう」


 そう言って、このオベロンとやらはおもむろに右手にはめていた白手袋を外して俺の足元に放り投げた。


 何だこれ?

 意味不明だし、これはどういう……?


 まぁ、よく分からないが、おそらく『拾え』ということなんだろうな。


 分かった、分かった。

 面倒だけど拾えばいいんでしょ!


 特に深く考えることもなく、思わず手袋をそのまま拾ってしまった。

 これが見事なまでの失敗だった。


 「いたたっ!」


 何だ? アンラが急に肩をツネってきたぞ。


 「ちょっと、アンタ。何で拾っちゃったの!?」


 そう驚きの表情を浮かべて小声で呟いてくる。

 えっ! 俺、もしかして何かやらかしちゃった?


 「ほう。それを拾うとはいい度胸だ。いいだろう」


 うん? 一体どういうことだ?


 「おほん。皆の者、よく聞きたまえ! これから私、『フランボワーズ=オベロン』はこのサイという男と決闘を行う。これは是非とも余興としてご覧あれ!」


 オベロンの大声な話を聞いて、ようやく事の重大さを認識した。


 あー。

 そう言えば、そんな設定があった気がする。


 アレか。

 投げつけられた手袋を拾うと決闘を受諾したことになるとか言う。


 おっと、これは想定外の事態になってしまった。


 今度は里での模擬戦とは違い、正式な決闘。

 しかも相手はお貴族様。

 いくら何でも対戦カードが悪すぎるだろう。


 この難局、どう乗り切ったらいい?

 一体どうなる、俺!?







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