第113話 いよいよ迎えた本番当日。準備は万端だが果たしてどうなる?
こうして早々にベーシックな踊り方を覚えた俺だが、それで残りの2週間が丸々フリーになった訳では決してなかった。
まず、ダンスは基本のものだけでなく、いくつか踊り方に種類があるからだ。さらには高難易度のものも……。
もっと言えば、これは社交ダンスなので相手があって初めて成立するのは当たり前のこと。つまり、アンラと動きをしっかりと同調させて、あたかも一体感あふれる踊りを演出しなければならない。となると、独りよがりのダンスなどご法度ということになる。
そうなると基本的な動きを覚えただけでは心もとない。相手の動きを計算するためにはそれなりに追加の練習が必要だ。
ということで、アンラと俺はひたすらレパートリーを増やし、特訓を重ねに重ねた。
それにしても女の子と手を繋いで踊るだなんて、ドキドキしっぱなしだ。
さて、実はダンスと同時に別の訓練も始まっていた。
どんな訓練かと言うと、簡潔に述べるならば『礼儀作法』の実践勉強である。
言わずもがな、俺がダンスをする会場は貴族のお屋敷。それもアンラのような下級貴族ではない。それこそ貴族としての『格』がはるかに上で、しかもSランク冒険者ときたもんだ。
こうなってくると、単に社交ダンスが出来ますというレベルでは心もとない。むしろ、ダンスよりも細かい所作を学ぶ方が優先順位としては高いくらいだろう。
そんな訳で、お辞儀の仕方、服装の基本、最低限の礼儀作法、ナイフやフォークの使い方など食事作法の諸々を叩きこまれた。
わざわざ意識しなくても、俺がこういったことに興味がない人間だというのは自分でもよく分かっている。裏を返せば、興味がまったくないので、自発的に覚えることが困難だったのだ。
仕方ない。
例のアレを使うか……。
ということで、先のダンスの時と同じく、俺の取るべき動き方をアンラや執事に実演してもらい、自分はというと『隣人トレース』を実践して、頭の中に完璧なイメージを作ることに専念する。映像記憶にしてしまえば、とりあえずすぐに忘れることはない。
そうそう、服に関してはアンラの家が一通り用意してくれた。ありがたい。もちろん採寸してもらい、自分の体に合った世界で一着のオーダーメイド仕様だ。
こうして何とか出発までには様になる位には仕上がった。
あとは、本番でうまくやり過ごして、どうにか最低でも及第点までは持ち込みたい。
ここまで来たら、あとは天命に任せるとしよう。
もちろんその先のブロドリオと接触してスキルを得ることを目論んで……。
◇
いよいよ舞踏会に出席するため、2週間ほどお世話になったアンラの邸宅を出発する。目的のブロドリオの豪邸はここから1時間ほどだそうだ。予想よりも近い。
さて、馬車2台で家を後にした我々だったが、意外や意外。いや、実際のところはそうでもないか。とにかく道の状態が良いことに驚いてしまった。
おそらく周辺地域は高級住宅地のような感じになっているのだろう。
馬車も上下に跳ねないので非常に快適だ。
もちろん森の中を通らないから魔物も出ない。
今回はさすがにトラブルの類は一切起こらないまま無事に到着したのは良いのだが……。
ははぁ~!
いや、これは凄い。
さすがは大貴族様だ。
まず門構えからして全く違う。
大げさに横に上にと広がっている。
そして、門を通り抜けてから豪邸までの距離がこれまた長い。
もちろん豪邸はとてつもなく巨大だ。
ぱっと見は3階建てで、現代日本人がよく知っている高層ビルの感覚から言えば大したことはない。
ただ、それぞれの階の高さがかなりあり、実際にはかなりの存在感を放っている。
既に多くの馬車が停められている。
その数、大体数十といったところだろうか。
さぁ、いよいよ俺の決戦の舞台が幕を開ける。
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