第110話 ダンスをするだなんて聞いてないぞ
さて、こうしてお父様へのご挨拶が済んだところで、やんわりとアンラに俺の希望を伝えてみよう。
何もここに来たのは、こうも貴族の家をわざわざ見に来た訳ではないのだ。もちろん商談も重要と言えばそうなのだが、それは単なるオマケでしかない。
まぁ本音を言えば、この世界での貴族の生活ぶりを直に見てみたいという気持ちもあるにはあったのだが、それはひとまず脇に置こう。まずはブロドリオに接触できるかどうか、その可能性を少しでも模索していきたい。
「ところで、ちょっと訊きたいんだが、いいか? アンラって、ブロドリオ様にお会いできたりするのか? もしアレだ、親しい間柄なら助かるんだが」
「はぁ!? サイ、あなた唐突に何を言っているの? 相手はSランク冒険者でしかも上級貴族よ。そう簡単にお会いできる訳がないじゃない…… と、言いたいところだけど、偶然ね。ちょうど今度お会いするわ」
「何っ!? それは本当か。それって、もしかして俺も会えたりするのかな?」
「サイ、あなた一体何を企んでいるのかしら? そんなの無理に決まって……」
あれっ、どうしたんだろう。
アンラは腕組みをしながら、すっかり黙り込んでしまった。
「いいえ、もしかしたら…… できる、かもしれないわ」
「ほう。それは興味深い。詳しく教えてくれ」
「実は2週間後にブロドリオ様の豪邸で舞踏会があるの。それに我が家も招待されていて、ワタシが行くことになっているのだけれど……」
ほうほう。舞踏会というのは、あれか。いわゆるダンスパーティーのことか。
「だけど……?」
どうしたんだろうか。アンラが何だかモジモジし始めたぞ。
「そ、その、あの、相手がいないのよ」
「相手って、何の?」
「あー、もう! この流れで相手って言えば、ダンスの相方に決まっているでしょう!? 相変わらず、もう、鈍いわねぇ!」
「あぁ、なるほど。そういうことか。でも、どうしてパートナーがいないんだ?」
「ケガよ、ケガ。ワタシにはまだ許嫁はいないのだけれど、その候補の一人がお相手してくれるはずだったのよ。それがこんな直前になって階段から転げ落ちるだなんて。まったく。こっちがプンプンになるのは当たり前の話だわ」
う~む。この世界でも貴族になると許嫁が普通なのか。それにしても、こんなに気の強い女の子を相手にするのは大変だろうな、と勝手なことを考えてみる。
「それでもあれだ。あと2週間もあれば何とかなるんじゃないのか?」
「無理ね。骨折よ、骨折! 全治2か月はかかるらしいわ」
「だが、ポーションがあるだろう」
「骨折の場合、ポーションは下手に使うと変な骨のくっつき方をしてしまうの」
「なるほど、そうなのか。知らなかった」
「まぁ、そんなワケで相手がいなくなってしまったわ。それで代役を探しているところなんだけれど、家のプライドもあるから表立って探す訳にはいかなくて……。でもそんな事、もういいわ。アンタがパートナーになりなさい! 今ここで決めたわ。お父上は後で説得するから大丈夫!」
「えっ! 俺がアンラの踊る相手に!? う~ん、社交ダンスなんてこれまでしたことがないんだが……」
「あと2週間もあるでしょ!」
「えぇっ。それって今から練習するってことか?」
「そうするに決まってるじゃない!!」
「というか、踊る相手というよりかは、お付きの者としてこっそり参加したいんだけど、それじゃダメなのか?」
「それは無理ね。一家の枠につき3人までしか招待されていないの。ワタシと相方、そして執事のクリスで枠は埋まっているわ」
う~む。これは予想外の展開になってきたぞ。まさに奇跡と言っていいだろう。絶好のタイミングで巡ってきたこの上ない千載一遇の大チャンス。
俺の目論見通り、どうやら怪しまれずに屋敷に入り込んでブロドリオと接触できるかと思いきや、いやはやここにきてダンスかー。
ちょっとこれは今までとは別の意味で試されているぞ。
こんなのどうやって乗り切ればいいんだ?
なんかもう、普通に魔物を倒していく方が楽なような気がしてきたんだが、これは俺の単なる気のせいか?
どうしたらいい、俺!?
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