第109話 食後のデザートに『サイズクリーム』はいかが?


 「まずは、ゆっくりお茶でもどうかな?」


 ……という、シュタイナーの甘いお誘いに乗り、せっかくなので皆さんと一緒にお茶をすることになった。


 まぁ、我々は実際のところ長旅で疲れているし、こうした配慮は非常にありがたい。当然ながら、ラクストンたちも即座に賛成した。


 このアンラのお屋敷は2階建てになっている。


 それだけ聞くと何だか慎ましい建物のように思われるかもしれないが、実際は広さが凄まじい。


 この世界では、おそらく上へと伸ばす建築技術があまり発達していないのだろう。それよりも、工事費の関係で横に広げる方が理にかなっているはずだ。


 さて、そんな訳で俺たちはダイニングルームに案内されている。これはむしろ大広間といっても差し支えないかもしれない。何しろ、一度に30人程度は食事を取れそうなほどの広さがあるのだから。


 そうか、これほど凄くても貴族なんだな。


 こうして見ると、やはり貴族の凄さと底力がちらほらと垣間見れる。


 「お茶菓子を!」


 そのようにアンラがお付きのメイドに指示すると、次から次へと様々な茶菓子が運ばれてきた。色とりどりで美しい。そしてお茶も。


 「サイ、これはアタシのお勧めよ。是非食べてちょうだい!」


 アンラが逐一こうして推薦してくれる茶菓子はどれも上品で、味もなかなかだ。


 この中の半分ほどはいわゆる焼き菓子だ。見た目はクッキーやマドレーヌ、あるいはシフォンケーキなどに近い。派手な装飾はされていない。この辺りは改良の余地があると思う。


 残りは果物をふんだんに活用したもので、あっさりとした甘味になっている。つまり、重めと軽めを取り交ぜた、緩急ある取り合わせと言えるだろう。


 なかなかどうして、よく考えられているチョイスだ。


 今回は事前に我々が来ることが分かっていたので、前もって頑張って準備してくれたことがよく分かる。なんだが申し訳ない。


 宴もたけなわに差し掛かったところで、俺は唐突に話を切り出した。

 とはいえ、あくまでも前座の話に過ぎないのだが……。


 予期せずとも結果的にはこの茶菓子のお礼ということになるはずだ。


 「……ところで、こちらからも甘味を持ってきた。サンローゼ中心部にある『ステラ』という店で出している茶菓子なのだが、こちらも是非ともご賞味願いたい」


 そう言って、すかさず空間収納に入れてあった『サイズクリーム』を取り出す。


 その瞬間、周りが一瞬「ガヤッ」とした。


 「まさか、あれは空間魔法か?」


 「ウソっ!!」


 当然ながらアンラからも突っ込みが入る。

 「えっ、サイ、あなた、それ、空間魔法…… よね? そんな高等魔法が使えたの?」


 「あぁ、これはつい最近のことだけど、何とか苦労して獲得したものなんだ。ちょっと旅をしていてね」


 「ところで、その見慣れない茶菓子は一体何なんだね?」

 唐突にシュタイナーが会話を遮る。まぁ、そりゃそうだろう。全くの未知の物体が目の前に出されたとなれば、自然と興味関心はそちらへと移るはず。それに融けない内に食べてもらいたかったから丁度いい。


 「これが『サイズクリーム』という新しい茶菓子だ。いや、まったく新しい料理と言ってもいいかもしれない。見た目は地味だが、おススメの逸品だ。とりあえず、まずは召し上がって欲しいのだが……」


 当然ながらクロナラとラクストンは自信ありげの表情で成り行きを観察している。


 「ふむ。確かに見た目は地味だが、奇妙な感触だ。ほんのりと甘い香りがするな」


 シャクシャク。


 「ほう。スプーンでえぐるのか。これは面白い」


 いざ実食。


 「なっ!? な、何なんだこれは!? 美味い。甘い。冷たい。まったく知らない。こんな料理」


 「えっ、ナニコレ。めちゃくちゃ美味しいんだけれど。えっ、ウソでしょ!?」


 どうやらシュタイナーとアンラのどちらからも気に入ってもらえたようだ。


 「お、おほん。実は、この料理を作るための原材料が足りていない問題があって……。結論から言えば、今、ラクストンと協力して新しい畑を作ろうとしているところなんだが、興味はあるだろうか?」


 「そりゃもちろん。ちょっと詳しい話を聞かせてもらおうか」


 おっ。予想以上に前のめりで食いついてきた。これで出資的な部分も解決できれば儲けものだ。


 その後の話し合いで、その点もクリアになり、ついでにアンラも成り行きで事業に加わることになった。まさかこんな形で共同のプロジェクトが始まるとは思わなんだ。まぁ、使える者はガンガン使っていこう。しかもそれでお互いが『ウィン-ウィン』の関係になるなら一番だ。


 だが、これはあくまでも前座に過ぎないのだ。俺には崇高な目的があってわざわざここに来た訳なのだから。






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