第96話 緊急事態につき、旅はひとまず強制終了とする
◇
少し時間を置いて落ち着いてから、今の出来事について改めて考え直してみる。
まず先ほど盗み聞きした会話で、自分の拠点があるサンローゼが危機に直面している可能性が高いことが分かった。
会話の内容から推測すると、この二人組はおそらく主犯格ではないだろうが、所属している組織の仲間が実行犯なのだろう。
また、先のスマート・ウルフの大量発生もやっぱり人為的なものであることがこれで確定した。
元々、このサルキアの街に立ち寄る予定は無かったことだし、一刻でも早く拠点に戻ってそのインペラトール・トータスとかいう巨大亀をちゃっちゃと片付けてしまおう。あくまでも倒せればの話だが……。
さてと、次に考えなければならないのは『鑑定の結果』についてだ。
残念ながら、二人組の片方しかスキルで鑑定できなかったが、それでも情報としては十分だ。それを元にすると、主な問題は【魔族】、そして【反社会的勢力】という2点。
これは一体どういうことだ?
何がどうなっているのやら、さっぱり訳が分からん。
えっと、う~ん。
あっ、いや、待てよ。
そうか! そういうことか!!
ようやく俺の中で点と点とがすべて繋がった。
これはもしかすると……。
ひょっとして、いや、ひょっとしなくても、俺は今までものすごい『盛大な勘違い』をしていたのかもしれない。
これまでの魔物異常種や病気の発生を仕組んでいたのは、てっきりサルキアの上層部だと思い込んでいた。それもギルド幹部や貴族、王族といった類の。
何しろ、これはサンローゼのギルド上層部から直接聞いた情報だから、俺は全く疑うことなくそういうものだと信じ込んでいた。
だが、おそらくこれは間違いだ。
厳密には、サルキア内の『何者か』による計略に違いない。
では、それを仕組んだのはどこの誰か?
多分、いや、ほぼ疑いなく、その答えがこの【ゴメラシオン】とかいう反社会的勢力なのだろう。
少なくともこの大陸では【魔族】が絶滅したことになっている。そもそも、それが生きているという事実そのものが重要だ。
もし仮にもう片方の男も魔族だとすれば、おそらくこのゴメラシオンとやらは魔族が仕切っている組織、あるいは乗っ取り済みの活動拠点になるはずだ。
この街では異常なほど厳重な警備が気になるが、今のところ納得できないほど理不尽な目には遭遇していない。他の様子からも特段この街が異常な様子は見当たらない。
となると、本当に倒すべき相手はサルキアでは無く、この『ゴメラシオン』という組織なのかもしれない。
なるほどな。
見えてきたぞ。
そうか。俺は敵を完全に見誤っていたのか……。
だが、これ以上考えている場合ではない。
というより、今はそれよりもサンローゼに戻るのが先決だ。奴らは確かに『明日には』と言っていた。すなわちそれは、明日までに戻れれば何とか間に合うかもしれないことの裏返しでもある。
……そうだな。
うん、旅はこれで中止だ。
やっぱりサンローゼに今すぐ戻ろう。
こうして、俺の旅はこうして突如として【強制終了】した。
だが、厳密に言えばこれは違う。
旅というのは戻るまでが旅なのだ。
あぁ、後半はまったりとしたスローライフな旅だったのに。
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