第95話 ひょんなことから機密情報を小耳にはさむ
「おやっ?」
自分の目がある道路に引き寄せられた。
厳密には道路そのものではなく、その街路樹だ。
まるでクリのような変わった木の実がたわわに実っている。
「食べられるのかな?」
さすがに実っている果実をもぎ取るのは気が引けるが、落ちているものを拾う分にはセーフのような気がする。
幸いにも、街路樹の脇には低木の植え込みがあって、そこに隠れてコソコソと木の実拾いができる。
さっそく夢中で拾い集めていると、怪しげな二人組が近づいてくる。全身黒ずくめ。頭には深々と頭巾を被っている。しげしげと見るまでもなく、ものすごく胡散臭い風貌だ。正直言って、近くに寄りたくないくらいだ。
思わず、そっと茂みの中に隠れる。
絡まれると面倒だから、ついでにこのまま通り過ぎるまでやり過ごそう。
すると、彼らが近づくにつれ、会話が漏れ聞こえてくる。
どうやら周囲に誰もいないと思っているらしい。
「それにしたってよぉ、まさかあの大群が一瞬にして消えちまうとはな。恐れ入ったぜ」
ん? んんっ!?
いや、もしかしなくても、先日のスマート・ウルフの大群の話なのでは?
聞き耳を立てる。
同時に全身に緊張がよぎる。
「堂々巡りになってしまうけど、お前、あれは人為的なものだと思う?」
「また、この話題か。まぁ、でも、そうなるよな……。ふむ、あれが人為的かどうか、か……。いや、さすがにあれは無いだろう。一万歩譲ってあの【大崩落】が魔法によるものだとしても、それは人間に行使できる規模をはるかに凌駕してしまっている。どう考えても不可能だ」
「やっぱりそうだよな。いくら何でも考えすぎか」
「だが、タイミングがタイミングだからなぁ~。誰でもその可能性には思い当たるはず」
「とにかくだ。これで我々の計画が狂ったのは間違いないが、問題はその次。そうだよな?」
「だな。まずは進行中の例の計画だ。さすがにこれは邪魔しようがないだろう」
「ふっふっふっ。何しろ今度の相手は雑魚じゃない」
「そりゃそうだ。なんせ、相手はあの【インペラトール・トータス】だからな。それも『特製』の!! もはやSランク冒険者だろうと誰が来ようと倒せるような代物じゃない」
「はははっ。その通りだ。明日には、サンローゼの連中、大騒ぎだろうな」
「間違いない。蜂の巣をつついたようになっているはずさ!」
えっ、これはどういうことだ?
とりあえず、『インペラトール・トータス』というのは聞いたことがある。
予想が正しければ超巨大な亀の魔物だ。
あまりの大きさから、『厄災級』と言われ、地域の冒険者が総出で戦いに挑むほどの相手だという。それでも勝てる保証は無いと言われる。
まさか、本当にそれなのか?
さらに会話が続く。
「もうすぐ街の周囲は跡形も無く消え去ってしまうさ」
「ふふふ。間違いない」
「だけど、本当にいいのか?」
「何が?」
「いや、貴重な遺物もろとも消えてしまう荒っぽいやり方で。それに街も今後の事を考えたら重要だろ?」
「だから『周囲』と言っただろう。ギルドなど重要拠点はもちろん残すさ」
「そりゃそうだな。当たり前の話だった」
もう彼らの姿が遠くになってしまい、聞き取ることができない。
だからといって追いかけられるような状況ではない。
隠密系のスキルなりがあれば有れば良かったのだが、残念ながら、そんなものは持ち合わせていない。
ここで下手に動いて捕捉されるのはまずい気がする。
ああ、そうだ!
うっかりしていた。
危うく忘れるところだった。
「鑑定!」
どうやらギリギリ間に合ったか。
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名前:ジンノ
種族:魔族
職業:商業ギルド補助職員
HP:883 / 883
MP:1502 / 1502
特記事項:宗教団体『ゴメラシオン』(反社会的勢力)構成員
--
んんっ?
あれっ!?
これは…… どういうことだ。
ちょっと予想外の情報に戸惑いを隠せない。
とにかく情報量が多い。
まず、名前・職業はともかくとして、この【魔族】というのは何だ?
そして、特記事項にある【宗教団体ゴメラシオン】というのは何ぞや?
加えて反社会的勢力だと!?
いかんいかん、頭がこんがらがってきた。
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