第91話 予定外のサルキアへ
俺は悩んでいた。
いとも簡単に奇病の問題を解決できたのはいいが、こうも次から次へと問題が起こるのはいかがなものか、そう思っていたのだ。
しかも例の『スマート・ウルフ』の大量発生にしろ、今回の奇病にしろ、ほぼ間違いなく裏でサルキアの連中が絡んでいる。奴らは、俺の楽しく平和な異世界ライフを乱す天敵だ。できれば彼らをまとめて排除したい。
本来ならば俺の旅はこれで終わり。
放水魔法も空間魔法も習得できたのだから、目標は完全に達成している。
予定通りにするのであれば、すぐにでも拠点があるサンローゼに引き返すべきだろう。何しろ宿をまだ貸切ったままにしてあるのだから……。
しかし奴らは日を追うごとに明らかに攻勢を強めている。
そう言えば、サンローゼ郊外での『シルバーメタル・アリゲーター』の1件もあったな。あれも【異常種】だった。となると、サティアやカディナだけでなく、我がサンローゼの街にも脅威が迫りつつある。そういうことだ。
許さん。
幸いにも俺は予定を延長してまだサティアに留まり続けている。懸念材料のサルキアはドンキル大渓谷の対岸、まさに目と鼻の先だ。
よし決めた。
殴り込みを決め込もう!
実際のところ、何の準備なしにいきなりカチコミをかけるのは無謀だ。まぁ、とりあえず街に入ってどんな様子かだけでも確認するとしようか。
こうして、悶々と悩み抜いた末、俺はサルキアへと向かうことにした。
だが、目と鼻の先の距離だが、実は行くのはそれなりに手間がかかる。
そもそも、ここからダイレクトに通じる橋も街道も無いので、かなり大回りをするしかないのだ。
記憶に頼らず、ここはちゃんと地図屋で買った地図を確認しよう。
おおっと、この街に向かっている最中は大急ぎだったのですっかり見落としてしまっていた。実は放水魔法を習得したスタナの街からここに至るまでに右にそれる小さな分岐があったらしい。
そのまま森の中の分岐をひたすら進むと、大回りしながらドンキル大渓谷へと出る。進行方向の左手側にちょうど俺がスマート・ウルフの大群を倒した場所がある。
ここまでは地図に書いてある通りの情報だ。
しかしあと一歩、情報が足りない。
仕方がない、ギルド会館へ行くか……。
◇
ギルドの外にも中にもデカデカとポーション屋のセラの肖像画が掲げられていた。例の奇病を治めた功績をたたえてのことだろう。
実のところ真の功労者は何を隠そうこの俺なのだが、それはこの際どうでもよい。いかんせん、あえて自分で権利を放棄したのだからな。そしてポーションの開発に成功したのは紛れもないセラの業績だ。
しかし一歩間違えていれば俺が肖像画になっていたのか。これはちょっと恥ずかしい。俺はサラッとした優越感が好きなのであって、けっしてこういう注目のされ方は好まない。
そんなことを思いつつ、会館の中に入る。
「本日はどのようなご用向きでしょうか?」
そこには受付け嬢の満面の笑みがあった。
奇病の件が片付き、ほっと一息ついているのだろう。
「あー、すまないが、ちょっと道を教えてほしいのだが……?」
「はい、構いません。どちらまでの道でしょうか?」
「えっと、目的地はサルキアなんだが……」
そう一言だけ伝えただけだが、気が付くと先ほどまでの笑顔が消えていた。
「サルキア……、ですか……。こことは仲が悪い街なのでおススメはしません。どうして行かれるのですか?」
「ドンキル大渓谷があるだろう。あそこを上から見てみたいんだ。もちろん、ちゃんとした理由もあるぞ。とにかくサルキアは一風変わった街だと聞いているから、中に入って交易できそうな商品を探しに行く予定だ」
もちろんこれは噓八百。商売する気など、一ミリもない。
「そうですか。例え商取引でもサルキアに入られるのはおススメしませんが、どうしてもとおっしゃるのであれば、特別にお教えします」
それからギルド嬢からさらに情報を引き出したところ、どうやら地図に書かれていた迂回路には大渓谷を超えられるよう橋が掛けられているようだ。その橋を通ることでサルキアの街中へと入れるらしい。
注意事項として、荷物検査があることを伝えられた。
身分証さえ無い方がいいらしい。
そこまでするとは聞いたことがない。
一体全体どんな街なんだ?
やっぱり普通の街ではなさそうだ。
まぁ、幸いにも俺には空間魔法がある。
荷物は空間収納で隠してしまえるから問題ない。
なお、飛翔魔法で大渓谷を渡って街に潜入という案は却下だ。あまりにも不審な国だから何がどうなるのかさっぱり分からない。それに長大な石壁から察するに、おそらく監視はかなり厳しい。ほぼ間違いなく捕捉されてしまうだろう。
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