第79話 魔法コレクターの本領発揮だ


 翌朝。

 ゆっくりと起床した俺は適当に街を散策してみることにした。


 まあ、あれだ。街の雰囲気は500キロほども離れているサンローゼと大差ない。見覚えのある、どこかで見たような似たり寄ったりの木造の建築物が立ち並ぶ。カディナも似た雰囲気だった。やはり海外旅行というよりかは、国内を回っているような感覚におちいってしまう。


 しばらくすると、地図にあったギルド会館が目に入った。これも普通と言いたいところだが、ここに顕著な違いが見て取れる。


 会館の脇にとても立派な物見やぐらが立っているのだ。かなり高さがある。おそらく何かの監視目的だろう。この街より大きいサンローゼはもちろんカディナの冒険者ギルドでもこんなものは無かった。その点、興味をそそる。


 建物の中に入り、早速、掲示板を確認してみる。

 どのような依頼が多いのかを見れば、その街となりが分かるからだ。


 ははぁ。なるほど。


 サティアに来る途中は大森林地帯。言うなれば密林だった。


 そのため、その地域性を反映して、食用のための魔物狩りがメインのようだ。あと、木材の切り出しと運搬などの仕事も目立つ。その一方、カディナにあった鉱山系の仕事やサンローゼでいくらかあった農業に関する依頼は見られない。


 もうこれで十分だ。

 この街については大体わかった。


 次はいよいよ本命の石碑の場所へ行こう!


 地図屋の親父によると、空間魔法が習得できるという “うわさ” のある石碑は街の中心部にあるという。確かに地図を見てみると、ここからそう遠くない場所のようだ。


 否が応でも心臓の鼓動が早くなる。そりゃそうだろう。この瞬間のためにわざわざサンローゼから長い旅をしてきたのだから。そして石碑の場所を知るために10万クランも払っている訳で。これで魔法が得られなかったらしんどいな。


 ここだ。


 街中心部の広場だった。

 見るからに、まるで公園のような場所。

 ここは観光地、いやむしろ憩いの場のようだ。


 ちょっとした不安が頭をよぎる。

 放水魔法の時は検問があり、高額な入場料と翻訳料まで請求されたが……。


 さて、石碑は…… あった!


 あれだろう。

 広場のど真ん中にある背の高い石碑。

 これに違いない。


 でも一つしかない。


 不安を覚えながら、一歩ずつゆっくりと近づいていく。

 石碑の前に立つ。

 頭をあげて石碑をよく見る。


 その瞬間、「日常空間魔法(超級)と戦闘空間魔法(超級)を取得しました」と頭の中に声が聞こえる。


 ヤッターーーー!!

 よっしゃー!!!!


 やった、やったぞ。


 習得できた。

 しかも日常系と戦闘系の両方とも同時に!


 これまで1つの石碑で両方をいっぺんに習得できたことはなかったが、こんなこともあるんだな。いやー、それにしても肩の荷が下りるというか、一安心。来たかいがあった。


 急に体から力が抜けて、思わずその場にヘナヘナと座り込む。


 それにしても無造作に放置されている石碑を見ると、おそらくほとんど誰も魔法を習得できていないのが容易に想像できる。チラ見するだけで魔法獲得とは本当にお手軽で最高だ。


 いったん宿に戻った俺はベッドの上で大の字になって横たわりながら考える。


 いやー、よかった。

 これで旅の目的は完全に達成された。

 多少はイレギュラーがあったが、もう満足だ。


 しかし、疲れたな。

 風呂に入りたい。


 そうか、風呂か……。


 この世界に来てから俺には不満に感じることがあった。すなわち風呂の問題だ。


 一応、宿にも風呂場はあるにはある。

 ただ、上品な言葉で『風呂』といっても実際のところ水浴びにすぎないんだな、これが。


 やはり元が日本人の俺にとっては苦痛以外の何物でもない。

 幸いなのは気候が温暖なこと。

 さすがに冷水だったら目も当てられなかっただろう。


 うん?

 待てよ。


 俺は、風呂に、入れる!?


 そうだ。

 できるかもしれない。


 頭の中にイナズマが走る。

 ひらめいた!









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