第78話 得るよりも使いこなす方が難しい
地図によると、スタナの村からサティアまでは街道に沿って歩いていけばたどり着けるようだ。道に迷いやすい俺としてはありがたい。
もちろん馬車などを使わず、身体強化スキルで走り抜くだけだ。
したがって、路面が多少デコボコだろうが問題ない。
そうして森の中の1本道をかっ飛ばすこと30分。
道脇に適当な空き地を見つけた俺はそこで足を止めた。
ここで休息を取るが、それ以上に大事な目的がある。
そう、言わずもがな、放水魔法のテストだ。
とにかく人がいない道だからこそ、“目撃者” が出ないのは俺にとって都合がよい。
先の石碑で俺は二つの魔法を手に入れた。
一つは『日常放水魔法(中級)』、もう一つは『戦闘放水魔法(超級)』。
どちらもステータス確認で確かに習得していることを把握しているが、まだ使えるかどうかの試験をしていない。さすがに街中で魔法をぶっ放すのはどうかと思い、試験を保留にしていたのだ。何しろ魔法がどれ位の威力なのか想像もつかないから妥当な判断だろう。
まず、軽い方からテストを行う。
日常系放水魔法の出番だ。
背負っていたリュックサックからコップを取り出して地面に置く。
そして手のひらを前へと突き出し、水をひねり出すイメージをする。
ブシューー!!
「うぉっ!」
ちょっと待った。
ストップ、ストップ!!
手から勢いよく水が噴出されて、あまりの勢いにコップが流されてしまった。
仕切り直し。
まずは汚れてしまったコップを左手に取り、続いて右人差し指の先から水を少し出すイメージをする。
ちょろちょろちょろ。
そうそう。
こういうのでイイんだよ!
徐々に水量を増やしていく。
まあ、こんなところかな。
コップを洗い、中に水を貯めて飲んでみる。
「うまい!」
う~ん、もう一杯だな。こりゃ。
それにしても凄い魔法を手に入れてしまった。
難易度が低くて誰もが使える魔法だけれど、これは素晴らしい。
異世界バンザイ。
おっと、これで満足するのはまだ早い。
まだもう一つの試験が残っている。
戦闘放水魔法。
正直、これは使い方がよく分からない。
とりあえず『ファイアー・ボール』の火の玉を水に変えるイメージでやってみよう。
空き地の隅っこに生えている大木に狙いを定める。そして発射だ。
「ウォーター・ボール!!」
バシュッ!
猛烈な勢いで水球が飛び出し、大木をくり抜いた。
「あっ……」
ミシミシ。バキバキバキ!
しまった……。
うっかりして大木を倒してしまった。
空き地の邪魔になるだろうから、これは焼却処分だな。
火焔魔法で倒木を焼き払い、日常放水魔法で消火と掃除をして、これにて試験は終了。
うーむ。
やはりと言うべきか。
戦闘放水魔法もやっぱり凄まじい戦闘力だ。
そう言えば、日常魔法の方は資質が『中級』にもかかわらず、意外と威力があった気がする。力の加減を間違えてしまったのはあるが、普通に問題ないレベルだ。これも魔力覚醒のおかげだろうな。
そして、MPは今の魔法で10減っただけ。
これなら丸一日くらいは連射できそうな気がする。
こうして休憩と試験が終わったところで、再びサティアへ進路を取り、走るスピードをさらに加速させる。なんとか日が暮れる前には着きたいところだ。
◇
後半を飛ばした甲斐があって、今回の最終目的地のサティアの街に着いた頃はまだ明るさが残っていた。サティアはそれなりに規模の大きい街のようだ。少なくともスタナよりもかなり大きいが、それでもカディナの街の半分以下の規模といったところ。
地図によると冒険者ギルドもあるらしいが、その見学は明日にしよう。
今はとにかく宿と飯だ。
適当な露店で飯を買い、適当な宿屋に転がり込む。
サンローゼもカディナもそうだったが、宿屋には宿を示す記号の看板が取り付けられている。そのため、宿を探すのは実に容易い。
なんだかんだ長距離の移動だったため、観光もせず、そのまま寝込む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます