第70話 突如として魔石の情報が山のように降ってきた。だが、これは好機である


 う~む。おそらく向こうとしてはこれ以上無いくらいの破格の条件を提示したつもりなのだろう。今回の巨大『ブラッド・ベアー』2頭の討伐の功として、これらの “価値ある” 魔石の中から2個を受け取る権利があるとのこと。


 ただ、いくら上質な魔石とはいえ、これらは買取り先が無い『訳アリの魔石』。


 言い換えれば実質、商品価値が無いという事でもある。それを分かっていてこの不平等条約のような条件を出してくるとは! 


 さしずめ、ギルド側は不良在庫を良い条件で処分するのに絶好の機会と捉えているようだ。普通ならそんな交換条件は即却下して現金をゲットすべき案件のように思える。



 だが、この取引、あえて乗った!

 ただし条件付きで。


 「とりあえず、魔石を手に取って直接見てみたい。それから決めてもいいか?」


 「ああ、それで構わないぞ」


 そこで、俺は秘書がずっと立ちっぱなしで持っていたトレイから無造作に魔石1個を手に取った。


 次に、全部で10個ある魔石をそれぞれ適当に色や形、傷などを確認するような動きをしていく。もちろんこれは見せかけだ。


 試しに薄い黄緑色の魔石を明かりにかざしてみる。宝石のペリドットのように光り輝いている。


 「これは綺麗だな」

 つい、口から感想が飛び出していた。

 だって、本当に美しいのだから……。


 だが、残念ながら、これは『外れ』だ。


 なぜなら俺には『鑑定スキル』がある。

 しかも声をわざわざ出さなくても発動できる優れモノ。


 これを使って全ての魔石を鑑定して、どのような価値なのか確かめなければならない。


 もし掘り出し物があれば向こうから持ち掛けてきた取引は成立。

 魔石との交換ということで喜んで手を打とう。

 逆にぼったくりの低級な魔石しか無ければ大人しく現金だけもらって退散するとしよう。


 これで決まりだ。


「しかし、上質なのは素人でも何となく分かるが、色や大きさがてんでバラバラだな。あと、小さめのものが多いんだな」

 魔石を見ながら、素直に思ったことを口にしてみる。


「これらはもれなく全て魔石だ。確かに言う通り、見た目はいくらか違うがな。サイと言ったな。君はそもそも魔石について知っているか?」


「いや、そう言えば魔石そのものについてはよく知らないな」


「おほんっ。まず、魔石というのは人間で言えば心臓にあたる器官だ。自然界には魔力の源である【魔素】があり、魔物が取り込み【魔力】に変換されて魔石に蓄えられていく。だから、元となる【魔素】についてはすべて同じものだ。分かりやすく言えば、水や空気と同じものと考えていいだろう」


「それが魔石の色や大きさとどう関係しているんだ?」


「関係は大ありだ。まだ研究途中の段階で詳しいことは未だ判明していないが、どうやら蓄えられている【魔素】を【魔力】に変えて魔石に封じ込める過程が魔物によって異なるらしいのだ。となると、魔石にもそれらが違いとなって表れてくる」


「それが色や大きさの違いだな」


「その通り!」


「興味深いな」


「重要なのは大きい魔石が必ずしも膨大な魔力を蓄えている訳ではないということだ。そして色による魔力量の違いも関係性が無さそうなのだ」


「それじゃあ、鑑定士は一体何を鑑定しているんだ?」


「もっともな疑問だが、それは基本的には持ち主である魔物の種類をきっちり判定することと、魔石そのものの品質を確かめるという2点だ。この二つをきちんと押さえておけば大体問題ない」


「その質というのは濁り具合や欠けの有無などで決まってくるということだな?」


「まさしくその通りだ」


「なるほど。ちなみになんだが、『魔族』の魔石はどうなんだ?」


「それは禁則事項で詳しくは答えられないのだが……。いいだろう。騒動を治めてくれたお礼に特別に少しだけ教えよう」


「それは有難い」


「まず根本的なことだが、人類とは何を指すか分かるか?」


「何を、と言われても。それは人間だろう。あとは獣人か……」

 ノエルとユエを思い出しながらそう答える。


「そうだ。人間種と獣人を含む亜人種を含めて人類と呼んでいる。つまりだ。魔族は人間ではない。ここまでオーケー?」


「ああ。問題ない」


「うむ。そして魔族は人間とは違って心臓がなく、魔物と同じく魔素が魔石に蓄えられるようになっている。つまり、見た目は人間と言われているが……。いや、実物を見たことがないんでな……。おほん。それはともかく、体の構造としては明らかに魔物寄りだと考えられているのだ。とりあえず駆動方式は魔物そのもの、言い換えれば人間よりも魔法の扱いに長けた種族とみなせるだろう」


「ちょっと待ってくれ。そんな強そうな種族がなぜ消えてしまったんだ?」


「君も聞いたことがあるだろうが、『魔族狩り』が原因だな。あとは知能が低く、適切な魔法を瞬時に発動できなかったそうだ。さらに『勇者』が主だった集団を根こそぎ討伐してしまったというもっぱらのうわさだ」

 ほほう。ここに来る途中で聞いた『魔族狩り』は本当の出来事だったのか。そしてここは勇者がいる世界なのか。伝説レベルの話のようだが、今もいるのだろうか。


 話を聞きつつも俺は魔石の【鑑定】に勤しんでいた。とはいえ、この会話は魔石の核心に迫る内容なので、出来ることなら不信感が出ない程度に会話を引き伸ばしたい。


 残念ながら、これまで確認した5個の魔石はどれも外れだろう。やはり大人しく現金でもらった方がいいかもしれない。


 しかし、次の魔石を鑑定した瞬間、自分の右眉がピクっと動いたのが分かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る