第67話 ハンター仕事は俺に任せな!


 出発して間もなく現場に到着した。

 予想よりも鉱山の入り口は近かった。


 既に第一陣が戦っていることもあり、騒然としている。ゲートは身体検査もなく素通りだった。いくら緊急事態とはいえ、こんなザルな警備でいいのか?


 なるほど。ゲートを通り敷地内に入ってしばらく進むと目の前に坑道の出入り口が見えてきた。そして付近は大きな広場になっているが、砂利を運ぶ台車があちこちでひっくり返っている。


 そして問題なのは魔物だが……。

 いた。あそこだ!


 場所は広場内。


 既に黒山の人だかりで今一つ様子が伺えないが、確かに巨大な熊の上半身が2頭分よく見える。一緒に固まっている。


 どちらも大きい。

 直立の姿勢だと、おそらく体長は8メートル位はありそうだ。


 それより問題なのが、『ブラッド・ベアー』の背後は鉱山の斜面になっていることだ。

 これでは背後から攻めることができない。


 今は、なんとか大人数で2頭を追いつめている構図だが、実際は確実な攻め手に欠き、かなり苦しい様子が伺える。いつまで持ちこたえられるか。ちょっと雲行きが怪しい。


 周囲の状況をじっくり観察しながら近づいてみる。


 あっ。


 ブラッド・ベアーが薙ぎ払った一撃で囲んでいた数人が吹っ飛ばされた。

 片手だけであの威力とは恐ろしい。

 さすがクマだ。


 さて、どうしたものか……。

 お金を貰って来ている身としては、いつまでも傍観している訳にはいかない。


 俺の使える魔法は戦闘火焔と日常火焔の二つだけで前回の『ホーン・ディア』討伐の時から何も変わっていない。


 そしてスキルも同様に変化がない。


 つまり、これらのいずれか、あるいは組み合わせで戦わなければならない。


 もっとも、これだけ人が多ければ、手抜きをしてサボってしまうというのも手だ。

 適度に手を抜くだけならバレにくいだろう。


 もちろん俺はこのブラッド・ベアーという魔物のことを何も知らないが、確かにこの大きさは前に倒した『シルバーメタル・アリゲーター』と比べても異常種である可能性は高いかもしれない。


 決めた!

 とりあえず倒してしまおう。


 俺はゆっくりと群衆をかき分けて、ようやく最前列まで到達した。


 ただ、この冒険者達だが、先ほどの一撃のせいで一気にたじろいでしまったようだ。

 尻込みしつつ微妙に魔物から後退しつつある。


 しかし、俺はその場から動かずに立っていたので、気が付くと【俺 VS ブラッド・ベアー】の決闘あるいは賭け試合のような構図になってしまっている。


 俺も周りに合わせて後ろに下がってもいいが、これは千載一遇の好機のように思えてならない。


 周囲に人影はなし。

 ブラッド・ベアーの背後は崖だから高火力の魔法を放っても被害はないだろう。


 これまで培ってきたハンターとしての討伐経験を利用する時がきた。


 とはいえ、自身固有の魔法かもしれない『青色ファイアー・ボール』や『ファイアー・ブレード』のような目立つ魔法は使いたくない。


 そうだ、【偽装】をすればいいんだ!!


 おっと、いきなり1頭が大きな唸り声を上げて俺に走って向かってくる。


 まず、こいつを倒す。


 バシュッ!


 一撃で胴体を貫通したブラッド・ベアーはその場で倒れた。


 それを見るやいなや、もう一頭も向かってくる。


 次はこっちだ。


 バシュッ!!


 多少、こっちの方が体格が大きかったので、少しだけ威力を上げたが、こちらも一撃で倒せた。


 しかしまぁ、ずいぶんとあっけなかったな。


 どう見ても、この魔法は成功作だ。そうだな、ひとまず『偽装火球・きわみ』と命名しよう。いつも英語のモジりばかりでつまらないから、今回は漢字にしてみた。


「うぉぉおおお!!!!」


「ヤッターーーー!!!!!!」


「スゲェー!!」


「一体何が起きたんだ?」


「あの兄ちゃん、たった一発ずつで倒しちまったよ。さっきまであれほど撃ち込まれたファイアー・ボールが全く効いていなかったのに」


 それはそのはず。

 俺の放ったファイアー・ボールは特殊仕様だったからだ。

 通常のそれではない。


 どういうものだったのかと言うと、要約すれば2層構造と言ってお分かりいただけるだろうか?


 普通のオレンジ色の火球に包まれる形で、実は内部に高温高密度の青色火球を仕組んであった。


 つまり、外見は一般的なファイアー・ボールそのものだが、それは見た目だけの話で、比較にならないほどの高火力の火球がブラッド・ベアーの体を貫いた。


 ただそれだけのことだ。


 もちろん外側のオレンジ色の部分は普通のファイアー・ボールに見せかけるためのダミー。


 こうして無事に討伐を完了できたが、予想よりずいぶんとあっけなかった。


 それにしてもそれなりの高火力の魔法だったはずだが、気が付くと即時連射ができるようになっている。


 俺がノエルたちの里で獲得した『魔力覚醒』というスキルのお陰かもしれない。実際、MPの増え方が著しい気がする。スキルを得る前と比べても(といってもあまり魔物を倒した経験が無いのだが)、少なくとも倍のMPが得られているのではないだろうか?


 倒した魔物はそのままだ。


 ギルドの関係者がそのまま後処理をしてくれている。


 実はこっそりと鑑定してみたが、やはりこれら2頭のブラッド・ベアーは【異常種】で間違いないようだ。しかし、それ以上の詳しいことは俺の鑑定スキルをもってしても明らかにならなかった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る