第66話 ギルドにて、またもや面倒事に巻き込まれ……


 翌朝。

 俺はいつものクセでギルドの前に来た。


 といっても、いつも通っているギルド会館ではない。何しろここは、サンローゼから遠く離れたカディナの街。だが、ここでも建物は壮大かつ重厚で、探すまでもなく一目でそれと分かった。


 さっそく依頼の掲示を見てみる。


 俺の予想が正しければ、依頼内容を一通り見るだけでこの街の様子がそれとなく分かるはずだ。


 現代日本でもチェーン展開をしている古本屋を覗けば、その町となりがある程度分かるようになっていた。例えば、財テク本コーナーが充実している富裕層の住む地域であったり、アニメ系の本や同人誌が膨大にある秋葉原の店だったり。イメージとしてはそんな感じである。


 なるほど。やはり予想は正しかった。


 鉱山のおひざ元だけあって、それ関係の依頼ばかりが張り出されている。

 採掘師や掘り出した土砂の運搬者といった依頼はここの定番のようだ。


 それ以外でも鑑定士や研磨士といった魔石の加工に携わる依頼も相当数ある。

 魔石をきれいに洗浄する仕事など楽しそうな仕事内容の依頼もちらほら。


 ふむふむ。


 なるほど、見ているだけで面白い。


 ただ、張り紙をよく見ると審査が厳しいものばかりであることが分かった。


 それもそのはずだ。


 いかんせん貴重かつ高価な魔石を扱う訳だから、窃盗などがないように雇用主は余計な気を遣わなければならない。


 鑑定スキル持ちの自分なら高級で雇ってもらえるかもしれない。


 そんなことを思いながら興味深く依頼を見ていた時に事件は起こった。


 カンカンカンカン!


 何やら外が騒がしい。

 鐘の音が鳴り響く。

 人の流れも激しくなっている。


 どうやら何かが起こっているようだ。


 バンッ!!!!


 ……と、いきなりギルドの扉が開き、腕にケガを負った男が転がり込んできた。


「た、大変だ。採掘場に『ブラッド・ベアー』が出たぞーーーー!! 通常の1.5倍ほどある超巨大な奴だ。しかも2頭。現場はえらいことになっている。すぐに緊急依頼を出して応援を要請してもらいたい!」


 ギルドの担当者も事態の重大さに気づいたのか、奥から次々と職員が出てきて対応にあたっている。


 しばらくすると、ギルドの職員の一人が声を張り上げた。

 「今から緊急依頼を発注する!! ブラッド・ベアーの討伐だ。この巨大クマ討伐の参加報酬は1万クラン。討伐報酬は単独の場合で1頭につき30万。共闘した場合は貢献度に応じて追加報酬を支給する!!」


 別の職員3人が受付に並び、希望者を順にさばき始めた。

 こういったことは頻繫にあるのだろうか。

 手付きが慣れている。


 事件が今、この場この瞬間で起きている。


 そもそも俺の目的としては魔法の習得だから、この緊急依頼を受ける義務はおろか、この街に留まる必要性すら見当たらない。この街に宿泊したのも偶然だ。


 なので、単純な効率だけを考えれば、このままギルド会館を後にするのが最善と言える。


 ただ、俺の頭の中で引っかかる箇所がある。そう、『通常の1.5倍ほどある超巨大な奴』という部分だ。 


 これはもしかすると、サルキアが人工的な細工をして生み出した【異常種】なのかもしれない。


 となると、話は大きく変わってくる。

 それにこれはチャンスでもある。


 昨日の馬車の中で聞いた話では、魔石の採掘場や坑道は厳密に管理されていて、とてもじゃないが見学や忍び込むのは困難だと言う。まぁ、これは当たり前の話だし、理解はできる。もし誰でも入れる現役のダイヤモンド鉱山があるとしたらお目にかかりたいくらいだ。


 さて、そうと決まれば俺も参戦しよう。

 騒々しい行列に俺も紛れ込んで並んだ。


 「次の方、どうぞ!」


 「サイさん、ですね。えぇと、Eランク冒険者…… ですか」

 急に声に力が無くなり、表情が暗くなる。

 まぁ、いかにも頼りないランクだから仕方ない。

 俺が受付担当でもそういう顔をしてしまうに違いない。


 「万が一、事故などが起きてもギルドでは保証できないのですが、大丈夫ですか?」


 「あぁ、構わない。Eランクでも受けられるんだろう?」


 「緊急依頼ですから、特別にEランク以上なら問題ありません。ただ、そうは言っても、そのレベルで参加される方はあまり多くないですので……」


 「問題ない。登録してくれ」


 「それではこちらの紙を控えとしてお持ちください」

 そう言って受付の若い男が1枚の紙切れを渡してきた。


 緊急依頼の参加希望者は裏手に集まり、人がまとまり次第順次グループとして出発する。


 俺は参加するかどうかを即断できずに迷っていた時間があったせいで、次の第二陣に滑り込んだ。


 多少もたもたしていても、ギルド会館の中にいたので、これでも登録したのはかなり早い方だった。


 なお金額が高いせいか、ギルドの外にまで長蛇の列が続いている。

 その感覚は正しかった。

 緊急依頼でも通常の参加報酬と言えば、良くてせいぜい2、3千クラン止まり。


 破格の1万クランの理由はというと、それはずばり『場所』の問題だった。


 考えてもみよう。


 現場の魔石鉱山の採掘場が荒れれば荒れるほど、稼働停止が長引けば長引くほど、街全体の資金繰りに大きな影響が出てくる。つまり、多少の金を配ったところで、早期に事態を鎮静化できた方がはるかに利益が大きいということになる。


 さて、いよいよ現場へ向けて出発だ。








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