第65話 焼き鳥モドキが絶妙な件について


 それから、お日柄がどうのこうのといった本当に他愛のない世間話をしている内にカディナの街に到着した。あっという間だったな。


 それにしても、とくに目立ったトラブルも無くて良かった。いつも何やかんやで問題ばかり起こるから余計にそう思う。


 馬車から見える街を見回す限り、確かにサンローゼと比べると規模はやや小さいものの、それなりに大きい街のように見える。雰囲気的には建物といい、ほとんどサンローゼといっていいくらいなほど。


 正直、近くに大きな川や湖もないこの街がこの規模まで大きくなれたのはやや不可解だが、先ほどの話を聞けばとりあえず理解はできる。もちろん会話であった魔石鉱山が無ければここまでの発展はあり得ないだろう。


 そして、我々が馬車で通ってきたばかりのこの道路の存在が大きいに違いない。舗装こそされていないが、穴もなく平坦で、しかも道幅が広い街道になっている。サンローゼとの物資の往来が容易なことも街の発展を支えてきたはずだ。


 商店を見回すと、どうやら必要なものは一通り買えそうで一安心。


 そうは言っても、ここはあくまでもスタナとサティアに行くまでの中継地点にすぎない。適当な宿を取り、食料の買い出しをする。というのも、馬車を使うのはここまでで、カディナより先は徒歩での移動になるからに他ならない。


 メインストリートを歩いていると料理をしている出店があった。これだ、コレ。話にあった名物の串焼きが見つかった。


 それにしても、でかい。

 これ一本だけでお腹いっぱいになりそうだ。


 「すいませーん。これください!」


 「ほいな!!」


 並んでいた5種類の中から選んだのは定番と言える一品、『ノギナ串』。


 説明不要だと思うが、謎の肉の合間にノギナという野菜が挟まった『ねぎま串』のような料理。


 だが、串の長さが40センチはある。


 というか、重い……。


 これから剣を食べるような不思議な気分になる。

 何せ、この重量を支えるため、持ち手が剣のようになっているのだから。


 さっそく一口ほおばってみる。


 うまい!


 何の魔物かは知らないが、柔らかく、適度に油がのっていてまろやかな肉質。そしてタレが肉の味を存分に引き出し、それでいて主張し過ぎないよう調整されている。肉の間に挟まれているノギナという野菜も絶品だ。油を中和するような味わいで、見た目にそぐわずシャリシャリした触感がたまらない。


 単純な料理だがレベルは極めて高い。

 気に入った。


 それ以外でも露店でいくらか買い込む。


 残念ながら、特筆すべきようなものは見つからなかった。


 強いてあげれば、鉱山街ならではの専門店が目立っていたのが記憶に残る。例えば、ツルハシなど採掘用具の専門店や魔石を仕分ける袋に特化した店など諸々あった。


 19世紀半ばのアメリカでの “ゴールドラッシュ” では、金の採掘人に道具を売りつけた店が実は本当に儲かったという。そんな専門店の繁盛具合を見るにつけ、案外この世界でもそうなのかもしれない。


 明日はもう少し街を散策してみることにしよう。


 そんなことを思いながら寝床に就いた。


 ベッドはそれなりに上質で驚いた。

 それほど高級な宿ではないはずだが、採掘関係者を癒すためだろうか……。

 気が付くとあっという間に寝てしまった。

 やはり馬車での会話が予想以上の負担となっていたようだ。



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