第64話 さっそく魔法を求めて遠征に出かけよう!


 この数日間は旅の準備のため慌ただしい日々を過ごしていた。


 少なくなっていたポーションを買い足しただけでなく、携行品を一式取り揃えた。また、武器も刃こぼれしていたので、せっかくなので良い物に新調した。


 地図を買って三日後、ひと通り旅支度を済ませた俺はさっそく北東へと進路を取った。

 宿は追加で1ヵ月間も貸し切りを延長しておいた。


 さて、今回の旅で確実に立ち寄るのは放水魔法のスタナ、そして空間魔法のサティアという2つの街だ。その他の集落やら村やらに寄るかどうかは状況に応じて決める。


 しかし、最終的には往復でおそらく千キロを超えてしまう旅程なので、ほぼ間違いなく間にある街や集落にも適宜寄ることになるだろう。


 とにかく無理をせず、人間らしい生活をしながら旅を続けたい。

 さすがに全日程を野宿で過ごすのは一応、限界中年の精神に堪えるからだ。


 そしてさっそく手抜きだが、今回は初手から馬車を使う。

 これで80キロ先のカディナという街まで行ける。


 正直、身体強化スキルを使えばそれくらいの距離はどうとでもないが、今回は長旅になるかもしれないので、とにかく荷物が多いのだ。こればかりはどうしようもない。体力も可能な限りなるべく温存しておきたい。


 こうなってしまうからこそ、空間魔法を一刻でも早く習得して空間収納を使いこなしたいところだ。もし首尾よく空間魔法が使えるようになるとすると、あわよくば、帰り道を歩く頃までには『空間収納』を習得して身軽になっているだろう。




 馬車はサンローゼ中心部の広場の一部から発着している。


 言ってみれば、そこがいわゆる “バス・ターミナル” のようになっているが、現代人の視点からだと空き地に無造作に停められた馬車群にしか見えない。


 目的の馬車はすぐ見つかった。

 なぜならカディナはこの辺りではサンローゼに次いで大きな街だからだ。


 もちろん乗り合い馬車で、俺を含めて客は5人だけ。大体40台前半くらいのご夫婦と、一人旅の様子な30代半ばくらいの男と20代前半くらいの女がその内訳になる。


 若い男はともかく、一人旅の女とは珍しい。

 二人とも冒険者らしく長鋼形の片手剣を装備している。


 鑑定すると確かにCランク冒険者なので、まずまずといったところ。

 いや、そもそも俺はまだEランクに過ぎないから、そんな上から大口を叩けるような身分ではないのだが。


 まぁ、とにかくそんな感じのメンツだ。


 馬車が出発した。


「お前さん、冒険者か?」

 おっと、いきなり30代の男に話しかけられた。


「あぁ、そうだ。ちょっとサンローゼから旅に出ようと思ってな」

 冒険者っぽい返事としては、こんなところか。


「やっぱりそうか! 実は俺も見ての通り冒険者をやっている。ゾンフィルだ。よろしく。カディナは魔物があまり出ない街だと聞いているが、そんなところに行くとはお互い物好きだな」


「俺はサイ。こちらこそ、よろしく。確かにそう言われてみると……。実は、カディナよりもっと先に行こうと思っている。元々、旅が好きだからな」


「なるほど、確かに旅は気晴らしにもってこいだろう。カディナは串焼きが美味いらしいぞ。長めの串に鳥の肉と野菜を交互に挟んで焼いたものを特製のソースに浸して食べると聞いた」

 それはもしかしなくても、焼き鳥のことでは……。


 男が話を続ける。

「だが、それ以上の情報は知らんな」


「何か他に名産やら特産物があれば面白いのだがな。誰か知らないか?」


「おう、それは俺たちの担当だ」

「そうね。私たちが適任ね」

 どうやら乗り合わせた夫婦が詳しいらしい。とりあえず話を聞くとするか。


「俺たちは夫婦で商売をやっていてな。カディナについては詳しいんだ。あの街の主要産業は『魔石採掘』。一言でいえば、それだけで成り立っているようなものだ。それでもその資源に引き寄せられてあれだけの街ができたという訳さ」


「ほう。それは興味深い。ところで俺は無知なので教えて欲しいのだが、その『魔石採掘』とやらは一体どういうことをするんだ?」

 当然の疑問を尋ねる。


「あぁ。そうだな。うっかり説明するのを忘れてしまったよ。確かにあの街を知らないものにとっては、意味が分からなかっただろう」


「魔石採掘はね、そのままの意味で捉えて構わないわ。代わりに私が説明するわね」


 そのまま女が話を続ける。

「誰もが知っているように、魔石は魔物の体内で生成されるものなの。でも、魔物が死んだあと、魔石はどうなると思う?」


「それは考えたことがなかったな。どうなるんだ?」


、が正解ね! 魔石はとても硬くて安定している物質だから、ちょっとやそっとの衝撃では壊れない。そして本物の石のように長年の歳月を経ても安定している、そんな代物だわ」


「それで残った魔石はどうなるんだ?」


「いい質問ね。答えは砂利に溶け込む。つまり、土砂に紛れてしまうの。ただ、魔石は普通の石とは重さがちょっと違うのが重要なわけ。だから、均一に紛れ込む訳でなくて、時間が経つほど偏っていくの」


「ははぁ。なるほど。話が見えてきたな。つまり、魔石が多く紛れ込む鉱床や鉱脈のような場所がカディナという訳だ」


「それで正解よ。だから、魔物が生み出した魔石が堆積した砂礫を掘り起こして、それらを取り出していくのが魔石採掘というわけ。こんな説明でいいかしら?」


「ああ。よく分かったよ。ありがたい」


「しかしまぁ、魔物の魔石で何よりだったな」


「それはどういう意味なんだ?」


「どうってことはない、単純な意味だ。人間には心臓があって代わりに魔石がない。そうだろ? 言い換えれば、これらの魔石はすべて魔物由来ということさ」


「つまり、人間由来の魔石だったら気味が悪い。そういう事だな?」


「その通り」


「でも、それって不思議よね?」

 若い女冒険者のクレイナが口を挟む。


 「どういうことだ?」


 「だって、そうでしょ。人間に魔石が無いだなんて」


 「何を当たり前のことを言ってるんだ!」


 「そうだそうだ。魔石が無いから俺たちは人間で魔物なんかじゃないんだよ!」


 「俺たちに魔石があったらまるでと同じゃないか!!」


 「ん? 魔族とは何だ?」

 おっと、ついよくよく考えずに質問してしまった。これはまずかったかもしれない。


 「お前さん、魔族を知らないのか? 確かに100年前の『魔族狩り』で絶滅したとのもっぱらのうわさだから分からなくもないが……」


 「聞いた話だと長い耳と翼があるんだってさ」


 「あと、心臓がなくて魔物みたいに魔石が入っていて……。ああ、気味が悪い」


 「おい、あまりその話はしない方がいいぞ!」


 どうやら魔族に関する情報はタブーらしく、この話はこうして唐突に終わった。それにしても魔族がいるのか。アニメとかでは基本、悪役だった気がするので重要な情報かもしれない。


 ちなみに採掘された魔石はやはりギルドや貴族が管理するらしく、上流階級に有利な世界であることを再認識した。










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