第58話 トラブル続出、今度はまさかの対人戦闘!?
翌日。
朝早くに起床し、朝食を取り、休憩もそこそこにして、さっそくホーン・ディアの討伐に向かう。幸いにも、ここから狩場はさほど遠くないようだ。問題なければ概ね半日かそこらで着く距離とのこと。
山中の小道を進んでいくとチラホラと魔物が飛びだしてくる。
しかし魔物といっても鳥などの小型のもので、それほど危険なものではない。
ただし、魔物を単にその見かけだけで判断するのは危険だ。
中には猛毒を持つものがいたり、フレア・ウルフのように魔法を常時展開している強敵がいるので当たり前の話だろう。
とにかく用心に越したことはない。
とはいえ、基本的には出てきた魔物は全てスルーする。
もちろん倒すことは造作もないのだが、問題はその死体だ。
その辺に放置しておくと強い魔物を呼び寄せる餌となってしまう。もちろんそれは好ましくない。なので、襲ってきたり危険な場合を除いて基本スルーが鉄則なのだ。
昼食を取り、近くの水場で体を洗い、再び目的地に向かって進み始めて2時間ほど経った頃だろうか。またもやトラブルが発生した。
唐突にクレアが「誰かいる!」と小声で耳打ちする。さすが弓矢使いだけあって、察知能力が高いようだ。
皆、行軍を止めて周囲の様子を伺う。
「誰だ。出てこい!!」
そう大声で警告したのはカタレナだ。
すると、グルっと周囲を取り囲む木々の間から7人もの男がのそのそと出てきた。
「よく分かったな。誉めてやろう」
頭目らしい小太りで毛深い男がそう荒っぽく言いながら武器を構える。
そして間髪入れずに声高々に宣告する。
「お前ら、武器を捨てて、持っている物をすべて置け。置き終わったら、両手を頭の後ろで組んで大人しくしていろ!!」
おぉ!
よもや生きている間にこんなセリフを生で聞けるとは……(セカンドライフだけども)、って感心している場合ではない。どうみても盗賊に襲われている。昨日は魔物、今日は盗賊と付いているのか付いていないのやら。
どうして、こんなに余裕があるのかと言うと、ずばり『相手が弱いから』に他ならない。見た目はいかつく、如何にも強そうですオーラを放っている盗賊共だが、俺の持つ鑑定スキルで見てみるとこのクラスに負けることはほぼ無さそうに思えるほど弱い。
とはいえ油断は禁物だ。
何せ、相手は多勢に無勢。
それにどんな手を使ってくるかも分からない。
そして俺の他に4人もパーティーメンバーがいるのだ。
出来れば早急かつ穏便に対処したい。
こんなことを一通り考えている内に、他のメンバーは武器を外し、荷物を置き始めている。なぜ彼らが戦わないのかと言えば答えは簡単。
戦わないのではなく、戦えないのだ。
例えば弓の場合なら矢を構えて照準を合わせるまでの時間が長い。
魔法も同様に詠唱時間があるので、こうした秒単位を争う状況では不利なのだ。
それに詠唱を開始した時点で、怪しい動きとみなされ、詠唱が終わるよりかなり前に照準済みの矢で射抜かれるのがオチだろう。だからこそ、こうしたイレギュラーに即興で対応するのは難しい。
「おいっ!! そこのお前。そう、お前だ。早く武器を外せ」
おっと、注意されてしまった。渋々と背負っていたリュックサックをわざと大袈裟な動作で口元が隠れるように下ろしながら、小声で「あいつら、倒しちゃっていいですかね?」とささやく。
「サイ、お前倒せるのか? だったら、やってしまって構わんぞ」
「あぁ、問題ない」
こうしてダルガーとカタレナ両方のお墨付きを得たところで、心は決まった。
とはいえ、これは俺にとって極めて大きい決断になる。
何しろ、よく分からない異世界とはいえ、人を
そして現代日本では異世界のことは無効となるだろうから、少なくとも法的な問題はクリアできる。
今は差し迫った命の危機を脱出するのを優先すべきだという俺の考えはやはり変わらなかった。
思った通り、剣は守備範囲が極端に狭い武器のせいか今一つ盗賊の警戒心が緩い。
先に武器ではなくリュックを下ろしても特に何も言われなかった。
ついに帯刀していた剣を外し、両手を目一杯前に突き出して、それを掲げながら落とす。
その瞬間、叫んだ。
「皆、伏せろ!!」
俺は剣を落とした手のまま、身体強化スキルを使い上にジャンプ。
1.5メートルほどの最高到達点に来たところで、左右を瞬時に確認して賊の位置を把握した後、交差していた両手からレーザービームのような戦闘火焔魔法を放ちながら両手を左右に広げ、賊全員を一瞬で一刀両断。
都合、1秒くらいか。
文字通り秒殺で盗賊連中を処断した。
バキバキバキッ!
おっと、少し遅れて細目の木々も倒れ始めてしまった。
ちょっと環境破壊してしまった。
まぁ、これは仕方ない。
言わずもがな、一撃必殺で彼らを葬り去る必要があったから、やはりそれなりの威力の魔法を使う必要があったのだ。ちなみに今回の必殺技は、そのまま『ファイアー・ビーム』と命名してみた。
「サイ、お前…… やっぱり色々と凄いな」
「いや、それは流石にないっしょ。ナイナイ」
「本当に一瞬で倒せるとはな」
「助けてくれて、ありがとう!」
皆が皆それぞれ異なる反応をしてくれたが、後できちんと感謝されたことは言うまでもない。
しかし、何というか、この【感謝される】というのが非常に心地よい。
というのも、派遣社員の時はお荷物扱いで怒鳴られてばかり、派遣先からも差別され、結局のところ感謝という概念を忘れかけてしまったほどだ。
それどころか、正社員が引っこ抜いてしまったパソコンの電源の件もなぜか俺のせいにされるなど、感謝どころか憎悪の念が募るばかりだった。
そこへ来ると、突如として命の危機が襲い掛かるような異世界の方が、本来あるべき人間らしさを実感できるのはどこか間違っていやしないだろうか。
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