第56話 ダルガーがビックリたまげたサイの活躍劇
「な、何だ。何なんだ、これは!!」
一体何が起こったのか。
サイの放った炎は青白く、これまで全く見たことのない類の火焔だった。
あの強敵『フレア・ウルフ』を消し炭にしていく瞬間が未だに脳裏に焼き付いている。その一部始終だけが、まるで時間が停止したかのように頭の中に記憶されてしまった。
あまりの異常さに火焔魔法ではない、全くの未知の魔法のように見えたほどだ。
おっと、思わず自分でも取り乱してしまった。
面目ない。
俺はダルガー。
この5人パーティーを仕切っている。
さすがに経験豊富なB級冒険者だけあって、自慢ではないが、事実、これまで数々の修羅場をくぐり抜けてきた。
そんな歴戦の勝者が見たのは己の目を疑う光景だった。
目の前にあるのは、つい先ほどまでAランクの魔物『フレア・ウルフ』だったもの、つまりは灰の山だ。
これは明らかに異常だ。
いや、あり得ないと言ってよい。
これまでの常識から考えれば、フレア・ウルフを倒すには基本的には氷結魔法か百歩譲っても強力な放水魔法でしか倒せない。
だから討伐パーティーには必ずそれらの戦闘系魔法に長けた使い手を加入させるのが定石となっている。それも経験豊富であることが必須であるのは当然のこと。そして素質も中級レベルでは心もとない。だからこそ上級以上、可能であれば特級の素養があり、なおかつ、そのクラス相応の力を確かに行使できる者を皆こぞってパーティーメンバーに加えたがる。
だが、言うは易く行うは難し。
そうは言っても氷結魔法の上級以上など、この街でも数人いるかどうかの逸材。まさに引っ張りだこになるレベルだろう。俺たちのような中堅パーティーには縁のない話のはずだった。
そんな俺だが、実は過去に一回だけカタレナと一緒にフレア・ウルフの討伐パーティーにお情けで加えてもらったことがあった。
所詮はB級で戦闘系の氷結ないし放水魔法が使えない俺たちは蚊帳の外。
それは仕方ないが、露払いの役回りでひたすら小型の魔物を倒していくという面白くもない仕事を道中ひたすらこなした。
しかし、そんな中、フレア・ウルフの討伐を間近で見れた経験は唯一無二の収穫だった。何しろギルド専属A級冒険者のエカテリーナとギルディアスの最強コンビがフレア・ウルフの猛攻をものともせず、最終的には見事に氷結魔法で討伐したのだから。
それにしても見事な戦闘だった。
思い返すと未だに身震いするほどだ。
言わずもがな、フレア・ウルフに火焔魔法を使うことはご法度だ。
というより、それが常識だ。
もし、火焔魔法なんぞ使う奴がいるとすれば、常識知らずの頭がおかしい野郎と相場が決まっている。はっきり言えばこれは馬鹿と言われても仕方ない位の愚かな行為だ。まさしく火に油を注ぐ結果になるのが目に見えている。
それがどうだ。ここにある灰の山は、そんな俺の常識をはるかに凌駕した超常現象に近い存在のようにさえ思えた。何と言っても炎で覆われた火属性の上級魔物を≪炎≫で倒すとは。しかも骨も残さず完全に灰にするなど、そんな芸当ができる人間が果たしてこの世界にいるのだろうか?
いや、ここにそんな人物が確かにいるのだから、それは間違いない。
となると、一瞬で倒してしまった≪サイ≫という人間、コイツは一体何者だ!?
いや、それはこの際、どうでもよい(ちっともどうでもよくないが)。
こんな魔物に出くわしてしまったのは仕方ない。
とりあえず全くの想定外の強敵を相手にして無傷で生還できたことを素直に喜ぶとしよう。ごちゃごちゃ考えるのは後だ。
そうダルガーは開き直った。
何しろ楽天的な性格は冒険者にとってとにかく重要なのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます