第55話 特別な魔石は見た目から特殊だった


「な、何だ。何なんだこれは!!」

 声の主はダルガー。


 そりゃ驚くのは当然だろう。

 目の前にある灰の山は、つい先ほどまで襲い掛かってきたAランクの魔物だったのだから。


 とはいえ、この前うっかりして同じように灰にしてしまった『ジャイアント・ボア』はもっと巨大だったのだから、こんな小さな魔物を灰にしたところでそこまで驚くべきようなことではないような気もする。


「凄いな、本当に影も形もないぞ!」


「いや、それにしたって、牙すら無いとかあり得ねー」


「倒せて良かった。それにしても矢が通らないなんてびっくりだよ」


 皆、それぞれに感想を言い合っている。


 俺はというと、まだ靴紐ショックから抜け切れていない。

 いくら何でも間抜けすぎだったぞ、自分。

 しかもよりにもよってあのタイミングで。


「そう言えば、魔石はあったりするのかな?」


 クレアが発した一言で皆が一瞬お互いを見つめ合い、次の瞬間、慌てて我に返った。


「そうだ。魔石があるはず!!」

 カタレナのダメ押しの一声で、慌てて全員で手分けして灰の山をかき分けながら魔石を探していく。


 とはいえ、実はちょっとだけ嫌な予感がしていた。

 もちろん、先のジャイアント・ボアを戦闘火焔魔法で倒した時のことを思い出したからだ。


 あの時は加減に失敗して魔石もろとも灰になってしまった。

 思い返しても大失敗としか言いようがない。

 今回はそれを踏まえて何とか手加減したかったのだが、差し迫った命の危機があまりにも怖すぎて、ついついジャイアント・ボアの時と同じ位の火力を出してしまった。


 そのため、毛皮はおろか、牙や骨、そして魔石を含む全てが消滅してしまった可能性がそれなりに高い。まさにそれを危惧していた。


 だからといって、そんな秘密を馬鹿正直に話す気になれるはずもなく、とりあえずポーズとして魔石を探す振りをする。もちろん気分としては乗り気でないが、あからさまな手抜きに見えないように手を動かし続けた。


「おっ、これか? もしかすると、これじゃないか??」


「きれい! 魔石っぽいね」


「うむ、見た目からしてそれっぽいな」


 それらしきものを発見したのはグラーゼだった。


 見るとも確かに魔石のようだ。

 薄黄色い美しい色彩を放っている。


 ただ、気になるのはその大きさだろう。

 何しろ小さい。

 いや、あまりにも小さすぎる。

 親指の半分くらいといったところだろうか。

 火焔魔法で小さくなってしまったのか。


「あー、いや。それは確かにフレア・ウルフの魔石だぞ」


「ダルガーに同意だ。アタシも保証する」


 実はダルガーとカタレナは以前、このフレア・ウルフの討伐に参加したことがあり、その際に魔石を一度だけ見ていたそうだ。

 なんとこの小ささで標準らしい。


「やったぜ! これで大儲けだぜ!!」

 グラーゼが喚きたてている。相変わらずお調子者の雰囲気が付きまとう。


 それにしてもこの魔石、そう言われて見ると一体いくらの値が付くのだろうか。

 気にならないといえば嘘になるが、ついさっきまでしていた【命のやり取り】の感覚が頭から離れず、まだそれどころではない。


「これはアタシが預かっておく」

 そう一言だけ言い放ち、魔石はカタレナの胸元に収まった。やり方が今一つ上品ではないが、約束はきちんと守りそうだからひとまず信頼しておく。


 兎にも角にも、めでたし、めでたし。

 これでひとまず一件落着である。


 さてと、危機が去ったことだし、こっそりと俺のステータスを確認しておこう。


 ステータス・オープン。


 --

 名前:サイ

 種族:ヒューマ

 職業:冒険者(Fランク・ノービス)

 HP:722 / 896

 MP:840 / 930

 魔法:戦闘火焔魔法(超級)、日常火焔魔法(超級)

 スキル:身体強化、鑑定、魔力覚醒

 特記事項:状態異常(迷い人)

 --


 おぉ!!

 MPが100以上も増えているではないか。でも、思ったよりも減りが少ないのを見るに、フレア・ウルフを倒すのにMPはそれほど必要ではなかったらしい。HPは未だにMPに及ばないものの、着実に数字が上がっている。


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