第48話 別れの数だけ強くなれる…… はず


 さて、多少の予想外の出来事があったものの、里では期待通り、いや、むしろそれ以上の成果があった。なにせ新たに『魔力覚醒』という、いかにも強力そうなスキルを手にしたのだ。


 事実、俺のMPは驚くべきことに倍増した。

 もしかすると他にも何か未知な効力があるかもしれない。


 そして副産物として、ノエルとユエの本来の力も解放できた。

 これで新スキル獲得の恩返しもできて気分は上々。


 だが、今後のことを考えると一転、気分が重くなる。


 そう、俺は今、究極の選択を迫られている。それはすなわちノエルとユエのことだ。


 両方とも素晴らしい女の子であることは間違いない。

 そして、とにかくカワイイ。


 しかし、ここで彼女たちと別れるべきか否か、それが問題だ。


 もちろんあまりにも可愛いので一緒にいるのは心地よいし、そんなスケベ心を抜きにしても、この世界での数少ない仲間なのだ。別れるのに抵抗がないと言えば嘘になる。


 しかし、一緒にいると大きな問題が残ってしまう。


 そもそも論だが、俺は里に住みたくない。

 もちろん皆、親切でいい方々だ。

 料理も美味しい。


 ただ、無理やり頼み込んで住み込みで働けるとしても、獣人族の村でたった一人の人間としてやっていく自信など皆無。


 それにここは周辺に何もない山の中。

 これまでの様子を見るにつけ監視も厳しいだろうし、とにかく制限が多いことは間違いない。


 代案として二人を連れだしてしまうのもアリと言えば有りだが、いくら両方とも冒険者だからといってオオババ様の許可が出る確率は低いだろう。


 仮に猛説得の末、それが何とかなったとしても大きな問題が立ちはだかる。


 端的に言えば、俺の秘密が露呈してしまう恐れだ。


 少なくとも魔力覚醒のスキルが使えるのが知られてしまうのは時間の問題と言える。

 これはよろしくない。


 なにせ獣人族、しかも猫系種族に固有の古代文字を一目見ただけで完璧に理解してしまったことになるのだ。


 この理由をどう説明すればいいのか? 

 否、これはきわめて難しい。


 考えた末の無難な案として、『実は翻訳スキルを持っていました。てへぺろ!』といった言い訳も有るにはある。だが、もちろん本当はそんなスキルを持っていないので、それも嘘だとすぐにバレてしまうだろう。


 それに身体強化スキルの存在は伝えてしまったから、既に複数のスキルを持っている時点でとにかく怪しいのだ。


 ましてやこれらに『鑑定』を合わせた3スキルの所持など、とうてい説明できるものではない。何しろ、この世界ではスキルを持っていること自体がきわめて珍しいのだから。


 となると、やはりその言い訳すらも危険すぎる。どう考えても、かなり苦しい説明になってしまう。


 残念ながら消去法の結果、ここで二人とお別れすべきという結論に至った。何回も再計算してみたが、やはり脳内会議が導き出した結論は同じだ。まぁ、これは致し方無い。


 ……ということで、俺はこれから街に戻ると切り出すと、ユエが泣き出してしまった。泣きたいのは俺も同じだ。他方のノエルはというとさすがに泣きはしないが、かなり堪えている様子に見える。


「本当に? 本当に帰っちゃうの?? もう少し泊まっていったらいいんじゃない?」


「仕方ない…… わね。サイがそう決めたなら止めないわ。でも私たちはアナタのことを忘れないし、いつでも戻ってきてね。命の恩人なんだから大歓迎よ」


 その後、長々と言葉を交わしたが、最後に「渡すものがある」といって二人に紙を差し出した。そう、例の魔法陣が記述された特別な紙だ。


「これって、あのスキルが習得できる魔法陣よね!?」


「そうだ。お礼の代わりにこれを置いていく。里のみんなに見せてもらって構わない。これで全員揃って強くなれるだろうし、特にラートは俺よりも肉弾戦が強くなってしまうと思うぞ」


「こんな大事なもの、本当にいいの?」


「サイさん、ありがとう!」


「いや、気にすることはないさ。有効に活用してみてくれ」


 そうだ、うっかり言い忘れるところだった。

「ただ、一つだけ条件がある」


「条件??」


「どんな条件なの?」


「これは俺が里を離れた後に皆に見せてほしい。フォローもよろしく頼む」


「そんなことならお安い御用よ! 任せておきなさい!!」


「うん、それなら大丈夫!」


「そうか、良かった。とにかく世話になったな」


 それからオオババ様に軽く挨拶をして、俺は里を立った。ノエルとユエはもちろんだが、なんとオオババ様とラートまで見送りに来てくれた。ありがたい。


「今度、戦う時は負けんからなー。覚えとき!」

 ラートの威勢のいい声が響く。


「これ、ラート。失礼じゃ」

 すぐにオオババ様に頭をパコーンと叩かれていて、まるでお笑いコントを見ているようだ。


 それにしても派遣時代にはこんなことは無かったので既に涙腺が崩壊しそうだ。当時は、正社員には挨拶をするが、隣にいる派遣の自分は華麗にスルーということが平然とあった。それと比べると、獣人の彼らの方がはるかに人間が出来ている。少なくとも俺はそう思う。


「みんな、ありがとう! また会おう!!」


 本当の最後の最後にそう言い残し、里を後にした。何回も振り返り、手を大きく振り、お互いの姿が見えなくなるまでそれを続けた。






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