第47話 魔力覚醒には【刺激】が必要だった!?
予想はしていたが、確かにノエルとユエは新しく『身体強化スキル』を習得できたようだ。首尾よく上手くいったこともあり、これで俺の中ではかなりスッキリした。
「それより、何か他に変化は無いか?」
だが、実は身体強化スキルはただのオマケだ。それよりも俺が気になっているのはこっちの方なのだ。
「そう言えば、なんだか魔力がみなぎっている気がするわね」
「うん、そんな気がするー」
「ちょっと外で試してもらえるか?」
そんなこんなで俺たちは里の敷地を一旦出て、魔法を試すことにした。
ノエルが手を前に構えた。
「〇▽×□~~ ファ、ファイアー・ボール」
「ズドーン! バリバリバリッ!!」
大木を的にしていたのだが、見事に命中したと思ったら、次の瞬間には凄まじい音を立てながら倒れた。
「すごい。すごいよ、お姉ちゃん!」
「えっ、今の威力がファイアー・ボール? 私が放ったやつ? う、噓でしょ。ありえない!!」
う~む。例によって肝心の呪文がまったく聞き取れなかった。ギルドの登録試験の時に少しだけ聞きかじったものとは大分異なる気がする。となると、どうやら獣人族が使うスペルは多少なりとも違うのだろうか?
それはさておき、ユエも同様に魔法の威力が文字通り“倍増”していた。そりゃそうだろう。鑑定してみると、二人のMPはちょうど倍になっているのだから。二人とも鑑定スキルがないので具体的な数字など分からないはずだが、明らかに魔力が増えていることに気付いて驚愕している。
実はメタルアリゲーターをギルドまで運んでいた時から、俺は姉妹の魔力覚醒スキルがどうして発動していないのかをひたすら考え続けていた。
そうして俺が至った結論は、このスキルの発動には追加で『何らかの刺激が必要なのではないか』というものだった。
むろん、これは純粋な俺の勘にすぎなかったが、試してみる価値がある、そう思ったのだ。
蓋を開けてみれば見事にその予想は正しかった。
原因はよく分からないが、とにかく今は魔力覚醒がその真価を発揮できるようになっている。
これまでプログラマーの端くれとして、不調のパソコンの修理を依頼されることが多々あった。しかも無料で。対価なしとはまったくもってひどい話である。散々、人をタダでこき使いおって……。そもそも専門外の仕事だぞ。
それはさておき、こうしたPCの不調の原因を探ると、意外とよくあるのが特定のプログラムが干渉して不具合を起こしているケースだ。この場合はもちろんそれを消去するときちんと作動するようになる。
この世界ではおそらく一度獲得したスキルを除外することはできない。となると、追加でスキルを入れて『刺激』を与えてやればよい。まさしく【押してダメなら引いてみろ】戦法だ。
この世界にはインターネットすら無く、自分のプログラマーとしての職業知識はまったく役に立たない。
しかし、それでもこの世界の一員として何らかの役に立ちたい、そう思う。
「おそらく身体強化スキルを会得したことで、これまで使えなかった魔力覚醒が発動したんだろう。良かったな」
「あ、ありがとう、サイ」
「サイさん、本当にありがとう」
小さな耳がピクピク動いている。カワイイ。
しかし、こうもお礼を言われると照れてしまうな。
「いや、こちらこそ貴重な石板を見せてくれるように取り計らってくれて感謝している。それに料理も」
そして俺はこう付け加えた。
「頼みたいんだけど、このスキルのことは今日一日、誰にも言わないでおいてもらえると助かる」
「え、えぇ。分かったわ。サイがそう言うなら黙っておくわ。」
「分かった~」
今更ながら、ユエは本当にのんびりマイペースだな。ちょっと天然が入っている感じなのも心地よい。
ひとまず疑問が解消されたところで、俺たちは里に戻った。あまり敷地の外にいる時間が長いと里の方々に不審がられるからだ。
これで俺がここでクリアしたい目標は完全に達成された。しかし問題がある。俺は大きな決断を下さなければならない。
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