第49話 消し飛ばせ! 例え巨大な魔物であっても!!



 さて、もういいだろう。


 里をそれなりに離れた頃合いで、身体強化スキルを発動させた。何分、行きはノエルとユエがいたのでスキルを使えなかったが、今は自分しかいない。何も遠慮することはない。


 しかも山中の一人旅はどう見ても危険となれば、ここはスキルを使って俊足で街に戻るまでだ。


 ということで、このタイミングで一気に加速する。

 さすがに早い、あれっ…… というか早すぎる。


 これはあれか、やはり例の新スキルの影響なのだろうか?

 しかし魔力覚醒は他のスキルにも影響するのか?

 スキルと魔法の関係は?


 謎は尽きない。


 森の中の小道を疾走すること1時間ほど。


 腹が減ったので飯にでもしよう。


 取り出したのはオオババ様の家から頂いた簡易飯、言わば弁当だ。

 これも大変ありがたい。

 香辛料と肉のいい匂いがする。


 しかし先ほどから気のせいであってほしいが、何やらガサゴソと音が聞こえるようだ。


 いや、気のせいではない。


 食べかけの簡易飯をひとまず脇に置き、音のする方向をじっと観察する。


 音が次第に大きくなってくる。


 もうしばらくすると、ついに音の正体が道に飛び出してきた。

 黒くて大きい塊に見えたので一瞬何か分からなかったが、明らかに魔物だ。


「あぁ、ジャイアント・ボアだ」


 周囲に誰もいないのに、思わずそう声を漏らしてしまった。


『ジャイアント・ボア』とはイノシシのような外見をした魔物のことで、その名の通り巨大な姿形をしている。


 どれくらい大きいのかというと、1家族が住む小さめの家といっても過言ではないほど。あまりの迫力にビビりそうになるが、どうやらそうも言ってはいられないようだ。


 まだ討伐依頼を一回も受けていない俺が知っている位だからもちろん有名な魔物だが、恐るべきはその凶暴性と破壊力。


 加えて、比較的頻繁に出没することから恐れられており、冒険者の間ではかなりの存在感を発揮している。


 実物を見るのはもちろん初めてだが、どうやら簡易飯の匂いに引き付けられている。


 あ、ヤバい。

 こちらに向かってくる。


 まずい、さらに速度を上げた。

 迷っている暇はない、対処しよう。


 まず、簡易飯を道の真ん中に急いで置き、奴の進行方向から急いで距離をとる。

 もう時間がない。


 せっかくだから、新スキルの威力を見たい事だし、戦闘火焔魔法の強化版を試してみるか。


 両手を前方にかかげ、迫りくるジャイアント・ボアに焦点を絞った。


 次にイメージだ。

 青い高温の炎を噴出し続ける感じがいい。


「とおぅりゃーー、これでも食らえッー!!!!」


 間髪入れずに予想通りの炎が両手から吹き出し、ジャイアント・ボアに直撃。

 完全に青い高火力の炎にくるまれた。


 そして見る見るうちに消し炭になっていく。


「あっ…………」


 しまった。

 やりすぎた。


 つい数日前、どこかで見たような光景が目の前にあった。


 今回はメタルアリゲーターの時とは異なり、素材が取れないレベルの灰の山があるのみ。

 火力が予想以上に強かった。

 これは完全に失敗だ。


 近くに寄ってみても、やはり灰の山にしか見えない。


 おっ、これは見事な牙がある。

 しかし手に取ると、すっかり黒くなってしまった牙はいくつかに折れ、地面に落ちた破片はそれぞれが粉々に砕けてしまった。


 やはり大腿骨のような大きな骨も同様な状態だった。


 もうジャイアント・ボアには用済みということで、この灰の山を戦闘火焔魔法で道脇に吹き払い、簡易飯を回収し、すぐにその場を離れた。


 そして走りながら様々な想像を巡らせる。


 う~む。

 あの戦闘火焔魔法は普通ではなかった。


 いや、そもそも『普通』とは何ぞやという議論は置いておいても、俺がこれまで使ってきた戦闘火焔の中で最も威力が高かったのは間違いない。


 もとより今回は素材のことを意識して、完全に灰にする予定は無かったのだ。


 今後、青い炎を出すのは必要最小限に留めよう。そう一人で勝手に誓った。


 さすが身体強化&魔力覚醒スキルの相乗効果だ(?)。

 結局、わずか2時間弱で街まで戻ってこられた。


 宿に戻り、大の字になってベッドの上に倒れ込む。


 そりゃそうだ。

 ちょっと色々なことがありすぎた。


 そしてノエルとユエの姉妹がいなくなってしまったという喪失感も否めない。


 気が付くと夕飯も食べずにすっかり寝落ちしてしまっていた。こんなことは久々だ。


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