第31話 内密の情報とはこれ如何に。何やら大きな陰謀の気配が立ち込める
とりあえず、これで鱗の買取りが何とかなりそうで良かった。ギルドの建物に戻ると、エリナ嬢から質問が飛び出した。
「そう言えば、魔石の回収はできましたか? もしあれば今すぐに買取りできますよ!」
そうだ、うっかりしていた。もちろん魔石も回収済みだ。ただ、鱗とは別の袋に分けていたため、忘れてしまっていたのだ。
巨大な薄黄色の魔石を袋から取り出す。
そもそも魔物には心臓に相当する位置に魔石があり、本体への魔力供給と制御を担う中心回路となっている。魔石は非常に頑丈なため、肉体を焼いた程度では壊れることはまずない。
今回は肉体を焼き払ってしまったため、結果的に解体など面倒な作業をせずに魔石を回収できたのはむしろ良かった。
これほどの魔力を秘めた魔石、一体、いくらの値が付くのだろう。
「えっ。これは……」
しかし俺の気持ちとは裏腹に、見せたとたんにエリナ嬢の顔が曇る。すぐに「ちょっと待っていてください」という一言だけ残して、魔石と共にどこかへ行ってしまった。
上司と相談してくるようだが、これはどういうことだ。
しばらくして戻ってくるなり、上に来てほしいと指示があった。やはり先ほどから何かおかしい。
ギルド会館は2階建てで、上階は職員専門のフロアになっている。そのため、俺はまだ一度たりとも足を踏み入れたことがない。
ある個室に案内された。恐る恐るお邪魔する。
「来たか。君たちだね。このシルバーメタル・アリゲーターを討伐したのは」
「あぁ、そうだ」
「まずは自己紹介だな。私はノーレン、このサンローゼ支部ギルド会館で副地区長をしている」
自己紹介はそこそこにして本題に移った。
「君たちが持ち込んできたこの魔石なんだが……」
そう言いながらノーレン氏は例の魔石を静かに机の上に置いた。
「実は普通の魔石ではないんだ」
何だと! 一体どういう意味なんだ?
「詳しく説明しよう」
そう言うと、部屋の奥から魔石を1つ持ってきた。
「これが“本来”のシルバーメタル・アリゲーターの魔石だ」
手に握られていたのは、我々が取ってきたものよりもかなり小さい楕円形の魔石だった。そして何だか色も薄いような気がする。
「違いは見ての通りだろう。君たちの魔石は通常の1.5倍ほどもあり、形と色もおかしい。特に顕著なのはこのひし形の角張った形状だ。これは“普通”の魔物にはけっして見られない特徴だ」
どういうことだ。このおっさん、何を言おうとしている?
「ここから話す内容は他言無用だ。もちろん誰にも言ってはならない。家族にもだ」
空気が変わった。
「ここサンローゼの隣にある、といっても500キロほど離れているところにサルキアと呼ばれる大きな都市がある。実は、そこの奴らが人工的に凶暴で大型な魔獣を作る研究をしているらしいといううわさがある。もっとも、ゼロから魔獣を作るといった高度なものではない。何でも、魔石や魔法陣を組ませた特殊な餌を食べさせる実験をしているそうだ。もしかするとそれで作られた魔獣なのかもしれない。ギルドでも今回のような角ばった大きな魔石を複数確認済みだ」
「えっ、ちょっと、何を言っているんですか……」
「ウソっ、本当に!」
「……」
俺はまたしてもショックのあまり声が出なかった。
「どうやらサルキアの連中はここサンローゼにある遺物を狙っているようだ。何しろ遺跡がそれなりに多くて、発掘される遺物も多いからな。それに比べてサルキアは遺物が無いから、魔道具も少ない。もしかすると、街中に暴れる魔獣を放つ、そんなことを考えているかもしれない。もっともこれは私一人の仮説だから外れることを願うが」
驚きの連続で衝撃を隠せない。きな臭くなってきた。
「お姉ちゃん、怖いよ」
ユエが思わずノエルにしがみつく。
「大丈夫、大丈夫だからね、ユエ!」
「君たちを怖がらせてしまってすまないが、これが現実なんだ。おそらく今すぐにどうこうという話ではないが、そういう事があるかもしれないことは知っておいてほしい。これで話はひとまず終わりだ」
予想外の展開に驚かされたが、現代でもそのようなことは未だにあるのだ。この世界ではどちらかと言えば普通なのかもしれない。むしろ平和な部分しか見えていなかったのがラッキーだった。
結局、例の魔石は本体以上に潜在的な研究価値があるとの理由で、一般とは別口の扱いで、この場で買い取ってもらえることになった。
そのお値段、なんと25万クラン。
初めての金貨払いだ。
通常より大型で攻撃性の強い魔物討伐に対する正当な報酬だそうだ。
その辺りは律儀というかきっちりしている。
問題は報酬の分配だ。
俺は出来る限り3等分したいと言ったのだが、ポーションで助けられたから、とノエルに猛反対を食らった。
最終的に自分が過半の13万クランを受け取ることで決着した。
正直、これでもかなり俺の取り分が多いと思う。
何だか申し訳ない。
ちなみに、シルバーメタル・アリゲーターの近縁種として、上位種ゴールドメタル・アリゲーターと最上級種のプラチナメタル・アリゲーターがいる。
さらに、これらよりかなり小型のブロンズメタル・アリゲーターもいて、これについてはC級冒険者2人がかりでも討伐できる位の魔物だという。
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