第32話 情報は生命線
魔石が思いのほか高く捌けて嬉しさ満点だが、それはそうと、俺はノーレンに訊きたいことがあった。
「ちょっと訊きたいことがあるんだが、いいか?」
「もちろん私に答えられることならいいが、いったい何かね?」
「いや、実は先ほど、メタル・アリゲーターは電撃魔法に弱いという話を聞いたのだが、そういった情報がまとめられている本や資料はあったりするか?」
「確かにそのような情報はギルドが収集し、きちんと管理している。だから君の質問に応じるならば、答えはYESだ。しかし、ここから先が重要なのだが、こうした情報は一部を除いて公表されることはない。君も見ただろう。ギルドの受付に置いてある教本がそれだ。Cランクまでの魔物の倒し方が載っている基礎的な本だが、冒険者の間で広く使われている。それ以上の内容、つまり機密情報については、もちろんギルド上層部やごく限られた上位の冒険者は閲覧することはできるが、今の君たちに見せることはできない。すまんが、納得してくれ」
「良ければその理由を教えてくれないか?」
素直に疑問を口にする。後で悶々とするよりかは、今ここで解消してしまった方がよい。
「そうだな。確かに魔物の討伐方法を広く公開する方が、冒険者や住人の安全を考えるうえでいいだろう。そう思うのも無理はない。だが、知っての通り、魔物討伐は冒険者の主要な資金源だ。弱点を聞きつけて、命を顧みず、上位の魔物に無理やり挑もうとする輩が出ないとも限らない。また、特定の戦闘魔法持ちが過度に優遇されてしまうのも喜ばしいとは言わんだろう」
一見、それっぽい理由を並び立てている。
「それに先の話のように、そういった情報開示は単に我々サンローゼの街だけの問題ではなく、サルキアのような連中にも都合よく使われてしまうことも考えられる。もちろん緊急性のある場合は別だが、現状では厳に秘匿されるべき情報として我々は扱っている」
部分的に納得しかねるが、後半の内容についてはおおむね同意だ。
「あと、もう一点。おそらく君たちは知っているだろうが、ギルド収蔵の秘蔵本にはスキルの習得方法なども書かれている。が、これらを見たからといって、必ずしもスキルが身に付くとは限らない。むしろ毒になるかもしれない」
「それって、どういうことかしら?」
ナイスだ、ノエル。俺が訊きたいことを先行して言ってくれた。
「それは文字通りの意味だね。肉体の器というか受け入れられる素養があるかによって、それらが身に付くかどうかが決まってくるんだ。そうなると、例えそれぞれ同じ内容の項目を別人が読んだところで、会得できる人とそうじゃない人に分かれる。そういうこともさもありなん」
「なるほど、確かにそうなのかもな」
「とにかく、体の限度を超えた魔法やスキルは習得できなかったり、顕現しないものだということは理解してほしい。いかんせん君たちはレベルも低いし、体の回路に過度に負担をかけてしまうことも十分ありうる。そうなれば、書によって身を滅ぼすことになりかねん」
一見すると納得できそうな、それっぽい回答だ。しかし、どうしたって胡散臭さがにじみ出ているのを隠しきれていない。これはギルドも何だか怪しい組織のような気がしてきた。この場は一旦引くが、話半分で聞いておいた方が良さそうだ。
この手の煙を巻く手法というのは自身の派遣時代に嫌というほど経験してきた。
まあ、この場では適当にやり過ごし、まずは正しそうな情報を集めて自ら本質を見抜く。そうして重要な部分を確定させてから、どう行動したらいいのか具体的に決めていこう。
……と、カッコいい偉そうなことを考える。だが、なかなかどうしてうまく出来た試しが無いんだな、これが。
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