第16話 宝探しはつらいよ


 小一時間の乗馬の末、我々が到着した先にあったのは、森の中に佇む、大きいというよりかは中規模な石造りの遺跡の跡地だった。


 といっても土台しか見当たらず、それもたまたま土を掘り起こしたら見つかったかのような雰囲気だ。


 遺跡以外には作業小屋と思しき掘っ立て小屋が2つ。

 聞いてみると1つは道具などが置いてある物置で、もう一つは警備員らが常駐している管理・見張り小屋なのだそうだ。


 遺跡は既に半分は掘り起こされた形跡が見て取れる。我々の任務は残るもう半分側の土砂をできる限りかき分け、遺物を探索するというもの。何だかワクワクしてきたぞ。




 2時間後。


 そのワクワク感は見事なまでに裏切られた。


 遺跡周辺の木々は切り倒されていて、直射日光が刺さる。いくら身体強化のスキル持ちだろうが関係ない。さすがに炎天下での作業は体に堪える。


 しかも何も成果が上がらない。土を掘っても掘っても土台の石以外には遺跡絡みの品はまったく見つからない。


 ギルディアスらは常に我々を見回って、適宜、掘り方や探し方をアドバイスしてくれるが、その実、我々の監視をしているだけのようにも見える。


「おーい、おーい!」


 遠くから声が響く。

 大きく両手を振って必死にアピールしている。

 どうやら何か出てきたらしい。


 慌てて小走りでその場へ向かう。


 着いた時には既に黒山の人だかりになっていた。


「アタシに任せな!」

 参加者の女、Eランク冒険者のエレノアが即座に自身がもつ日常放水魔法で汚れを落としていく。木製の桶に入れられた遺物がみるみる内に綺麗になった。

 俺は放水魔法を習得していないので羨ましい。


 うん?

 これは、もしかして、鏡か!


 人が邪魔で良く見えないが、銀色の板状のものが見える。


 近くに寄ってみると、割れた破片だが、確かにガラス製の鏡のようだ。


「あれっ!? えーッ!!」


 思わず小さく声が出てしまった。


 いや、それはそうだろう。


 鏡に写っていた俺は確かに俺っぽい風貌なのだが、これは本当に俺なのか? 

 いや、やっぱり違うな。俺じゃない。

 ていうか、誰?


 よく見る現地人とはちょっと異なる系統の顔だが、それほど違和感はない。


 冷静に分析しつつも動揺を隠せない。

 やはり別人に生まれ変わってました、と考えるのが正しいようだな。

 それにしても井戸に落ちて死んだというのはあまりにもカッコ悪い……。


 まぁ、それはこの際、脇に置いておこう。

 とにかく、問題はその見た目だ。

 明らかに若々しい。


 いや、実際問題、若返っていやしないか。

 少なくとも十歳くらい。

 いや、下手したら15歳くらい若返っていてもおかしくない外見だ。


 そういえば、この世界に来た時に若返ったような感覚が確かにあった。


 でも色々なことがあまりにもありすぎたのと、こっちに来て一度も鏡を見たことが無かったので、まったく自分の外見については意識していなかったのだ。


 昔から体型は変わっておらず、違和感を覚えることもなく過ごしてきたのだが、まさか俺は転生した結果、若返りをしてしまったのか? それが転生というものなのか?


 謎は深まるばかり。

 とりあえず過去の記憶がまるでないから、それ以上のことはよく分からない。


「凄いものが出たな。これはお宝に違いない。よくやった! 発見者のお前には後で特別報奨金が支給される。皆も励むように!」


 ギルディアスが弾むような声でそう言った。


 あれっ?


 これは単なる鏡じゃないのか。

 もしかしてこの世界に鏡は無いのか……。

 よく思い返してみれば、確かに思うところがある。

 そう、ここに迷い込んでから、鏡はおろか剣や硬貨に至るまでガラスや金属面に何かしら写り込んでいるのを見たことがなかったのだ。


 しかしギルドが宝と認めても、俺にとっては自分の見た目を知れた以外に得るものがない。


 結局、終わりの時間になってもこれ以外目ぼしい遺物は見つからなかった。


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