第17話 棚から新しいスキル


 こうして遺跡発掘は終わり、ギルドに戻る時間になるまで休憩となった。


 小屋の前にある大きな台の上には、俺以外の参加者や助手が見つけた遺物が並べられている。


 いつも通り、何の貢献もできないお荷物になってしまったのは心が痛む。


 台の上の多種多様な遺物はその乱雑な並べ方から、大した価値のあるものではなさそうだ。この内の大部分は助手や常駐の管理人が見つけたものである。その点、さすがプロと言える。


 一部の参加者は助手の手助けをしていたようで、土砂の運搬係を買って出ていたのもあるだろうが、それを抜きにしても成果ゼロの俺とはアウトプットが違いすぎてショックを隠し切れない。


 ちなみに例の鏡は既に小屋に持ち込まれて完全な特別扱いになっている様子。


「あの、ここに置いてあるのはこんな適当に置いておいていいんですかね?」


 思わず助手の一人にそう尋ねてしまった。


「ここに置いてあるのは、これまでの研究で魔道具でないものと判明しているものが大部分を占めています。例えばこの土器の破片なんかはそれに該当します。そう言えば、今日は文字盤が1点だけ出ましたね。あそこに置いてある粘土板です」


 そう言いながら助手は台の奥を指さした。


「えっ、そんな大事そうなものが、ですか?」


 お世辞にも丁寧に扱われているとはいいがたい。どちらかと言えば無造作に放置されている粘土板を遠目に見つめる。


「確かに文字が書かれているものは基本的に価値が高いんですが、いかんせん書かれているのがルーン文字なんです。これは科学者が束になってかかっても解読できない謎の言語でして、結局、ただの模様と大差無いんです。だからこの扱いになっています。とはいえ、これでも売ろうとするとそれなりの値段が付きますよ」


 ははぁ。

 なるほど。


 台を回って粘土板の真正面に立つ。とその瞬間、頭に例の音声が鳴り響く。


「スキル 鑑定を取得しました」


 やった!!


 これだよ、これ。

 この瞬間のためにこの依頼を受けたんだ。


 冷静さを装い、ステータスを観察することもせず、ただただ、「確かに見たことの無い文字ですね」などと適当なことを言って助手に合わせる。


 今回の依頼は集団行動が基本。

 ずばり俺の苦手なジャンルだ。


 早くこいつらから離れて新しいスキルを確認したいが、そうもいかない。


 流行る心を抑え、怪しまれないよう自分を律しながら、何とかギルド会館までたどり着いた。


 報酬は解散寸前にギルドで満額支払われた。

 事前の説明通り、1万クランちょうど。


 日本円で言うところの10万円だ。


 日雇い労働としては異常なまでの高待遇と言えるが、魔物を倒せばそれ位の金額は残念ながらになってしまう。


 しかし重要なのは俺がノービスであるということ。

 ちまちまと薬草採取や清掃作業で小銭を稼ぐのとは桁違いの収入だ。

 しかも命の危険がほとんどない。


 なんせ、この地区を代表するギルド専属のA級冒険者2名と常駐の警備員が付きっきりだったのだから。


 しかし何を置いても、それより重要なことが3つもある。


 すなわち、この世界に来てから自分の外見を初めて観察して、やはり転生したという確信を得たこと。そして若返りの可能性に気づけたこと。最後に鑑定スキルの習得だ。この3点はお金に替えられないほどの価値がある。まさしく生死を分けると言っても過言ではないほどに。



 ~~~~


 この世界においてスキルの獲得は極めて珍しい。

 貴族やギルドが独占管理している特定の遺物や写本以外で習得することは基本的にあり得ない。たまたま何らかの拍子に得られることがある程度のものだ。


 しかし今回の件で確証に変わったが、遺物にはスキル習得できる呪文や魔法陣がそれこそ膨大にあるはずだ。


 ただ、それらが巧妙に隠されていたり、翻訳できないなどの理由でこれまでスキルが習得できないものとされてきたのかもしれない。この事を自分だけが知っている。


 ~~~~



 背中がゾクゾクする。


 世界の深淵に一歩だけ近づいたような感覚が確かにあった。


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