第15話 馬に乗るなんてしたことがないんだが?


 数日後。指定の集合場所だったギルド会館裏口に到着した俺らを待ち構えていたのは屈強な男女の二人組だった。


「これでそろったか」


 女が口を開く。


「皆の者、傾注せよ! 我が名はエカテリーナ。ギルド専属のAランク冒険者だ。今日は私と、ここにいる同じくギルド専属Aランク冒険者のギルディアスが貴様らの面倒をみる。1日だけの金稼ぎなどと思わず、重要な任務と心得よ」


 通る声が辺りに響いた。


 次いで、ギルディアスが口を開く。


「お前たちはまずあの小屋に入って着替えをしてもらう。ポケットなどが無い、遺跡発掘専用の作業着だ。遺跡には私物の類は一切持ち込み禁止。例外は認められない。もちろんカバンも靴もだ」


 なるほど。小さい遺物をこっそり持ち帰ろうとする輩がいないとも限らない。


 粗末な麻の服に袖を通し、準備が完了する。しかし、我々が遺跡の原住民になったかのような、実にみすぼらしい恰好だ。


 今回の依頼を受けたのは俺を含めて全部で5人。そしてエカテリーナとギルディアスの助手がそれぞれ二人ずつ。あまり人数が多くならないように調整しているらしい。


 とはいえ、そもそも依頼の受注条件が厳しすぎるので、対象者がおのずと絞られているのも影響していそうだ。なんと言っても、生涯でたった1日だけしか受注できないのは流石に厳しすぎやしないだろうか。


 作業服に着替えた我々は続いて馬小屋に案内された。


「貴様らにはどれでもいいのでここにいる馬に乗ってもらう。遺跡まではそこそこ距離があるから事前に用を足しておけ」


 エカテリーナの男勝りの指示が響く。


 う~む、困った。

 とても困った。

 どうしよう。


 説明不要だと思うが、現代日本で馬は日常的な移動手段ではない。

 というか、これまで馬に乗ったことがないどころか、間近で見たことすらない。


 黒毛の立派な馬をマジマジと見つめる。


 でかい……。

 本当に大きいぞ。


 いや、これに乗るの??

 俺が?

 いやいや、無理でしょ。


 テレビで見た話だと、初めての乗馬だと内股が擦れて、痛くて歩けなくなるとか。


 我ながら不安になってくる。

 しかもこの不安はおそらく正しい。


 はぁ~、どうしよう。


 ただ、まぁ、俺にでも分かるよ。

 この世界において乗馬は必須。

 馬なしで身体強化のスキルだけで移動手段を補うのは厳しいだろう。


 異世界転生モノでは乗馬の場面は説明がないくらい、軽くこなしている描写ばかりだった。ところが、どうだろう。いざ馬に乗ろうとするとハードルがとてつもなく高い。


 とは言うものの、今更この依頼をキャンセルしたくない。根拠はなく、単なるカンなのだが、おそらく遺跡調査のバイト、もとい依頼受注は俺にとって必要なものだ。


 そろそろ時間的にごまかしが利かなくなってきたので、とりあえず馬に跨ってみることにした。


 いっせーの、えいっ。


 フワッと自分の体が浮いて、馬の背中に軽やかに着地した。

 身体強化のスキルが発動したようだ。傍から見れば、ものすごく自然な感じで飛び乗れたように見えるだろう。


 そうか、これが身体強化の使い方か!


 乗馬にも身体強化スキルが活かされることを知った。

 結果的に心配は杞憂で、乗馬の心得があるような手綱捌きで自分が一番びっくりした。


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