第11話 市場で情報収集をすると、掘り出し物を見つけてしまった件について


 受付け嬢から近くに市場があると聞いていたので、その情報を頼りにどんなものが売っているのか手始めに探ることにしよう。


 あった、これだ。

 見落としようがない。


 市場はそれなりに大きく、通りが丸々数百メートルにわたって屋台や店で埋め尽くされている。多くの人でごった返して盛況そのもの。


 置かれている色とりどりの野菜や果物、川魚は多かれ少なかれ見た目は「普通」だった。それこそ日本で売られているものと大差ない。


 しかし顕著なのは肉類。見るからに怪しい。これはトカゲ型の魔物の肉だろうか。皮付きのぶつ切り肉には大きな鱗がついたままだ。他の肉も骨の大きさが尋常ではない。う~む。ブタの丸焼きならぬ魔物の丸焼きねぇ。こういった系の肉は美味しいのか?


 そんなことを思いながら道を歩いていると、脇に逸れた人気のない小さな路地が目に入った。興味本位で進んでみると少し奥まったところに怪しげな店が見つかった。


 これが異世界の雑貨屋かぁ。店内に入ってみると木製の家具やガラス瓶など所狭しに並んでいる。見ているだけで楽しい。


 うん? 

 一角に何やら古めかしいものがこじんまりと鎮座している。


「すいません、これって……?」


 店員のおばちゃんがすぐに「あぁ、これね」といって懇切丁寧に説明してくれる。


 何でもこれらは遺跡から発掘された、俗に言う遺物。


 遺跡から見つかったものは魔法の習得といった特殊な効力を持つ場合があり、そうでなくても魔道具としての機能を果たすものが非常に多い。だからこそ、通常は例外なくギルドや貴族によって厳重に管理されている。


 しかし、そのような効果が無いと判断されたものに限り、このように少数ながらマーケットに流れてくるのだという。ふ~ん、なるほど。


 !!!!


 見た瞬間、脳内にビビッと電流が走った。これは!?


 ある木製の板に目が釘付けにされた。板といってもただの板ではない。文字が掘られた小さな正方形の板が碁盤の目のように並んでいる。


 適当に生きてきた俺にでも分かる。これは間違いなくパズルだ。文字の付いた小さな個々の木片は、どうやら動かして並び替えができるようになっているようだ。


「これ、いくら?」


 気が付くと口が勝手に動いていた。


「これね、高いよ。2万。こんな役立たずの板切れだけどさ、遺物はコレクションとして価値があんのよ」


 やはり骨董品のような扱いになっているのか。

 それにしても2万か……。


 この板だけで約20万円に相当するほどの大金だ。

 さっき売ったばかりの命がけで手に入れた魔石が5万クラン。

 どうしても比べてしまう。

 正直言って、高い。


 見る限り状態はすこぶる良い。

 おそらく土中に埋没していたものではなく、石棺やダンジョンのような場所から出土したのだろう。


 もしこれがレリーフのように単に木片に文字が掘ってあるだけであれば、俺のもつユニークスキル(?)が発動して、見ただけで瞬時に解読、あわよくば魔法かスキルが習得できたに違いない。


 しかし、実際はそうなっていない。となると、パズルを実際に解いてみないとダメだ。店内で貴重な遺物をごちゃごちゃ触るのは無理。仕方ない、買うか。これは大きな賭けだ。しかし試す価値はある。


「ありがとねー。またおいでな!」


 機嫌のいいおばちゃんが手を振って見送ってくれる。


 さて、問題はこの板が本当に価値のあるものなのかどうか。でなければ俺は大金をドブに捨てたことになる。


 適当な素泊まりの宿にチェックインした俺は屋台で買った簡易飯を食べ、さっそくパズルの解読に取り掛かった。


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