第10話 魔石は宝石のようだがそうでもない


「サイさん。どうも先ほどの試験、お疲れ様でした。無事に登録が完了しましたよ。こちらがギルドの身分証です。無くさないよう気をつけてくださいね!」

 手渡される【F】と印字されているカード。ようやく俺が冒険者としてのスタートラインに立った瞬間だった。


「おぉ、これが身分証か。ありがとう。思ったよりも小さいんだな」


「ええ。身分証は肌身離さず携帯して頂く決まりになっております。そのため、大きいと持ち運びが不便ですので」


「確かにそうだな。了解した」


 こうして「無事に」試験を通過した俺は、予定通りギルド発行の身分証を手に入れた。このカードがあれば、とりあえず冒険者として活動することが可能だ。


 あれっ。そう言えば、試験の結果如何に関わらず身分証は受け取れるんだった。


 とするとだ。


 わざわざ手の内を見せてまで魔法を使う必要が実は無かったことになる。


 まぁ、この世界で金を稼ぐためにはギルドの依頼を受けるのが手っ取り早いだろうから、実力が分かったし結果オーライだな。


「そうだ! 今度こそ魔石を買い取ってもらえるんだろうか?」


「そうでした。もちろん構いませんよ。それでは魔石をこちらにお出しください」


 ゴロン、と台の上に置かれるギガ・マンティスの魔石1個。

「先ほどお約束した5万クランになります!」


 こうして思った以上にてこずったものの、何とか魔石を買い取ってもらった。特に用も無いので、そのままギルド会館を後にする。


 なお、今回は特別に受付けで買い取ってもらえたが、素材の買い取りは基本、奥のカウンターで行うのだそうだ。次回からはそうして下さいと言われてしまった。


 それにしても、異世界に来てから初めて自分で稼いだ金だ。

 ちょっと感慨深い。


 これもラクストンに感謝だな。彼らが魔石を回収していなかったら、俺はこんな大金を貰えていない。


 なお、ちゃっかりと販売代金は小銭で受け取っている。だから、後々、買い物にも使いやすいはず。




 この世界において魔石とは、魔物から採れる重要な素材だ。魔物の種類によって色や大きさ、込められている魔力量が違ってくる。当然ながら魔力総量の多い魔石はきわめて高価で売買される。


 魔石の使い方はいたってシンプル。

 通常、遺跡から発掘された遺物かそれを加工した魔道具にセットして使う。


 剣など魔道武器には元から柄の部分に固定する箇所がある。もちろん剣本体は刃こぼれなどで使えなくなった場合は刃だけを交換しても機能に何ら問題は生じない。


 未使用の魔石はきれいに透き通っているが、魔道具を使って封じられている魔力が放出されるほど濁っていく。そうしてひび割れだらけになり、ついには粉々になってしまう。だからこそ、魔石が未使用かどうかを判定するのは容易い。


 もちろん冒険者から回収されて販売される魔石の金額はおそろしいほど高価だ。しかしこれまた当然ながら、魔道具を持たない我々のような普通の冒険者には縁がない。だから、魔石がその後にどうなるかなど、はっきり言ってしまえばどうでもいい話になってしまう。


 さて、このような高価な魔石を一体誰が購入するのか?


 それは貴族である。


 厳密に言えば回収した魔石は一度ギルドの所有物になり、その時点で本当に凄い魔石は取り除かれ、ギルドに保管される。残ったものに関しては、一般向けに販売される。しかし『一般向け』とは名ばかりであり、実際のところは貴族や上位冒険者などがほぼその全てを買い占めてしまう。


 また、相当の対価を払うことになってしまうが、“一般平民”でも一応は購入可能だ。しかし、『権力者』のコネと伝手がないとお話にならない。


 しかし、こうして改めて考えてみると、このシステムはかなりエグイ。まさに『富める者はますます富める』という言葉通りの階級社会であることは疑いようがない。


 肝心の魔道具や魔道武器については情報が制限されており、詳細についてはよく分からなかった。


 ただし、うわさ話から類推すると、かなりの業物であることが多いという。例えば剣タイプの魔道武器であれば、大抵の物は一刀両断できるらしい。そのようなとてつもない武器ならば、確かに大金を払う価値があるというものだ。


 とりあえず、当面の間は魔道武器には縁がないだろう。多少なりとも興味があるが、それは仕方ない。今は、ただただ依頼をこなしていこう。


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