第9話 登録試験の後には不穏な会話が交わされていた


「ガルダールさん、試験監督はいかがでしたか?」


「おぉ、受付けのエリナ嬢か!  いやー、今回はちょっとヤバいのがいたぞ。とんでもなくクレイジーな野郎がな」


「それって、もしかしてサイさんですか?」


「あぁ、確かそんな名だった気がする。いや、それで間違いない。あの野郎、ただの一発で的の甲冑を射抜きやがった。しかも見事な円形にだ。こんなことは今までなかった。ちょっと普通じゃないぞ、奴は」


「それって、そんなにすごいことなんですか? Fランク登録といっても、素質がAランク以上の場合も当然あるかと思うんですが……?」


「あのな、嬢ちゃん。そういうことじゃないんだ。これは口では上手く伝えられないが、例えSランクの冒険者でも1発で正確に心臓の位置に当てることは難しいんだ。それより問題なのが、当たった場所が本当に円形にくり貫かれていたことだ。こんな綺麗な切り口はこれまで見たことがない。あの野郎、一体何者でどこから来たんだ。とにかく得体がしれなく気持ち悪いが、近い将来化けるかもしれんぞ、あいつは。見た目はひ弱そのものだ。……が、もしかすると最強クラスにまで成長するかもしれん。楽しみが一つ増えたな!」


「手厳しいガルダールさんがそこまで褒めるなんて珍しいこともありますね。彼、いやサイさんなんですが、確かに不思議な方だったんです。なにしろギルドの基本も何も知らなかったんですから。ここの受付を担当してから随分と経ちましたけど、私、ここまで無知な人を案内したことはほとんどなかったんです。だから余計に印象に残っていると言いますか、単純に興味があるんですよ」


「それにな。あの野郎、詠唱をごまかしてやがった!」


「えっ!? それって、どういうことですか?」


「言った通りだ。確証はないが、奴はもしかすると無詠唱で魔法を発動できるのかもしれん。上手くごまかしたつもりと思っているだろうが、とにかく俺の目にごまかしなんか通用せんぞ」


「でも、そんなことってあるんでしょうか?」


「うーむ。少なくとも俺は聞いたことがない……。というか、それは常識だろう。愚問だな」


「ですよね……。とにかく不思議なオーラをまとった方でした。こちらの説明もびっくりするくらい真剣に聞いてくれて……。あれだけ質問をしてくれた人は今までで初めてなんです。やっぱり、ちょっと普通じゃないですよね」


「なるほどな。やはり奴は何かあるぞ。こっそりと様子を見ておいてくれ。見る限り間者かんじゃということではなさそうだが、とにかく念のためだ」


「わ、分っかりました。でもいい人そうですよ」


「それならそれでいい。今のギルドには強い奴が必要なのだ。分かっているな」


「えぇ。サイさんについてはよく考えて対応しますね」


「そうしてくれ。頼む」


 試験を終えたサイが消えた後、ギルド内ではそのような不穏な会話が飛び交っていたのだった。


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