第7話 ギルドで魔石を売りたかったのにまさか売れない、だと……!?


 ギルドのサンローゼ支部が直轄している会館は小さな街の中心部にあった。

 建物の外観といい、果たしている役割といい、まるで役所のようだ。


 さすがに人の出入りが激しい。

 俺も一呼吸おいてから重厚なドアを押した。


 薄暗い木造の建物の中を進んでいくと、受付けは一番奥まったところにあった。いずれも若い女性2人、男性1人が対応している様子。


 近づいていくと、

「本日はどのようなご用向きでしょうか?」

 とさっそく受付嬢から声を掛けられる。


 グラマラスな外見に多少ドギマギしながら、

「えっとですね、こちらを売りたいのですが……?」

 そう言いながら、例の魔石を差し出す。


「これはギガ・マンティスの魔石ですね!? 1個ですので、5万クランになります。ギルド証をお出しください」


 おぉ、けっこうな金額になるんだな。

 ん、ちょっと待て。ギルド証とは何ぞや。


「すいません。あのぅ、ギルド証というのが無いんですが、どうしたらいいでしょうか?」


「誠に申し訳ないのですが、決まりでギルド証が無いとお売り頂くことはできないんです。魔石は価値が高いものですから、出所を含めて管理するための対策となっております」


 ほほう、なるほど。


「あとは、そうですね。魔石のようなアイテムは冒険者が命がけで回収するものですので、不相応な能力の方がお金目当てに無謀な狩りをするのを防止するための意味もありますね。この周辺地域に住んでいる方は大体登録されています」


 あっ、なるほど。

 いや、感心している場合ではない。

 とても困った。


 これでは肝心の魔石を売れないではないか。


「えっと、その冒険者とやらの登録はどのように行うのでしょうか?」


「こちらの紙にお名前、使用魔法と武器、そして、もしあればスキルと住所もご記入ください。ちょうど30分後に試験があるので、裏の訓練場までお越しください」


 ……とショボい紙切れ一枚が渡される。


 それにしても、ずいぶんと記入項目が少ないな。

 名前はサイ、魔法は戦闘火焔魔法、武器は無し、っと。


 とりあえず、こんなもんか。

 なぜか文字が書ける。

 やはりドクロの力か。


 まだ時間があるので、冒険者について説明をしてもらう。


「それでは冒険者のシステムについてご説明しますね」


 さて、どんなものか……。


「ギルドはランク制になっています。それぞれの冒険者は、上から、S、AAA、AA、A、B、C、D、E、Fの9段階に振り分けられますので、よく覚えてくださいね。サイさんは登録が済めば一番下のF級からスタートです。別名、ノービスまたは初心者とも言われる階級ですね。まずは、Eランクを目指して頑張りましょう!」


「どうして、上の階級がやたらと多いんだ?」

 もっともな疑問を口にしてみる。


「それは、ですね。やはり上位の冒険者は能力の差が大きいからですね。それはそれは、本当に差が有りまして……。ですから、同じAランクとして括るのが困難という理由から細かく分けるようにしています」


 なるほど、確かに学校で歌が上手いのとコンサートホールを貸切るレベルとでは次元が違うしな。


「ちなみになんですが、Fランクことノービスは申請さえすれば試験の結果とは無関係に取得できます。その点はご安心ください。あと、最初の登録時の試験で例え良い成績を上げていたとしても、必ずFランクから始めなければなりません。そういう規定になっております」


「ほう。それはどうしてなんだ?」


「全員がわざわざ試験を受けるのは、あくまでも自分の能力やその特性を客観的に判定されることが大切だと考えているからです。それで実際に試験を受けられて、ご自身の長所や短所に気づかれる方も多いんですよ」


 なるほど。ちなみに、ノービスの中にはペーパードライバーの免許証よろしく身分証がてら使っている人も少なくないとか。


「あと、Cランクまでは受注依頼をこなすだけでランクアップが可能ですね。それ以上はギルドで昇格試験を受けなければなりません。ちなみにですが、Eランクにさえ上がれない方もちらほらといらっしゃいますね。ご存知のように、冒険者は実践ありきの厳しい職業ですから」


 なるほど。


「そして、Dランクまではノービス同様、薬草もしくはキノコ採取、あるいは土木作業ですとか、清掃作業などの仕事を受ける人が多いんです。ただ、いくつか重要な違いがありまして、一つは仕事の“幅”が広がることでしょうか。例えばFランクでは許可が下りないような、やや危険な地域での作業も可能となりますから。そのような地域では魔物に遭遇する危険が無くもないからですね」


「となると、実際に魔物の討伐依頼が受けられるのは何級からなんだ?」


「Cランク以上になりますね。例え危険性の低い魔物であっても、Cランクから討伐依頼を受注可能になります。いくら低レベルの魔物を相手にしても、場合によってはやはりある程度の強い魔物と遭遇する危険性を排除できませんから……。そのため、このような厳しめの規則になっておりますね」


「ところで、街中は安全なのか?」


「そうですね。この街の中は基本的に安全です。そもそも魔物は森の中に生息するので、街中に出没することはほとんどありませんね。仮に討伐対象の魔物がいた場合でも、街中やその周辺では殺傷性の高い魔法や武器は原則として使用が禁止されております」


「となると、やはりCランクに昇格するまで魔物を倒せない…… ということになるのか? せめて小型の鳥やトカゲなど、Fランクレベルで安全に討伐可能な低レベルの魔物なんかが居ればよかったのだが」


「それについては、実は裏技があります」


「裏技?」


「ええ、裏技です。と言っても、広く知られていますが……。これはFやEランクであっても比較的安全な魔物討伐に参加できる方法になります」


「それは興味深い。教えてくれ」


「それは、ですね。ずばり、討伐の受注が許されている高ランク冒険者が主催する『パーティー』に参加することです。こうすれば、“見習い”として討伐した魔物の経験値や売上金のいくらかを受け取ることができます。ですから、いち早く魔物を倒したい血の気の多い初心者の冒険者でも、パーティーでの実戦を通じて、それなりの稼ぎを得られるシステムになっていますよ」


「逆に高ランク冒険者は何をするんだ?」


「Aランク以上の冒険者は危険な魔物の討伐や災害級の案件について対応します。もちろん普段は通常の依頼を受けられる訳ですが、緊急時には指名で『直接依頼』が来ることがあります。とはいえ、この小さな街には数人しかいないレベルなので、実質的にはBランクでもほぼ最上位の扱いになりますね」


「なるほど。諸々教えてくれて感謝する」


「いえいえ、今から始まる試験、頑張ってくださいね!」


 うーむ。こうして基本情報が分かったのは収穫だった。


 ちなみにギルドへの登録料はタダ。後々、素材の買取りや依頼の受注の手数料などからそれ位の小銭は簡単に回収できる構造だとすると、なかなかどうして良くできたシステムのような気がする。


 それにしても、ギルド嬢に背中を押されたようで心地よい。


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