第2話


 魔神紋を手に宿した途端、仲間達のセージを見る目がガラリと変わった。

 勇者はあからさまに警戒した様子になっていた。戦士や盗賊も表面上は変わらない態度で接しながらも、時折疑わしい目つきで窺ってくるようになった。回復役の聖女にいたっては、ゴミでも目にしたように見下した表情となって、口もきいてくれなくなった。

 唯一変わらなかったのはマイペースな賢者だけであり、魔王を討伐してからの帰路は地獄のように気まずい空気になっていた。


 そして――極めつけは報告を聞いた国王である。

 魔王討伐部隊を送り出した国王は、セージが魔王の力を手にしたと知るや、すぐに裏切り者の反逆者として認定して処刑を命じた。

 英雄から一転して反逆者になったセージは心を通わせた魔物に手助けをしてもらい、どうにか生き延びた。


 セージが逃げ込んだのは人間が1人もいない荒野。

 ここまで来れば、さすがに刺客も追ってはこれないはずだ。


「どっちが裏切り者だよ……僕が何をしたって言うんだ」


 歩き疲れたセージは地面に座り、天を仰ぐ。

 国王がセージの処刑を命じたとき、真っ先に刃を向けてきたのは一緒に旅をしてきた仲間達である。

 勇者を先頭にして、迷うことなくセージを殺そうとしたのだ。


『最初からお前は不気味だと思ってたんだ! 魔物と話せるなんて、お前も人外だったんじゃないか!?』


『魔物を従えるなんて汚らわしい! 貴方のような邪悪な人間と旅をしていたなんて吐き気がしますわ!』


『魔王の後継者め! 死にやがれ!』


 苦楽をともにしてきた仲間の言葉に、セージは胸を貫かれるような痛みを感じた。

 仲間だと思っていたのはセージだけだった。勇者達はセージを仲間だなんて最初から思ってはいなかったのである。


「はあ……これからどうしようかな」


 セージは途方に暮れたようにつぶやいた。

 もう手配は世界中に回っているだろう。人里には入れない。

 このまま荒野に隠れているか、山野で魔物と一緒に暮らすか。心は通じ合っても人間の姿をしていない魔物と共に。


「やあ、探したよ。セージ」


「え……?」


 背後から声をかけられ、セージが振り返る。

 いつの間にか後ろに立っていたのは仲間の1人。賢者アルズワールだった。

 漆黒のローブを着た若い男が紫色の髪をなびかせ、セージに親しげに笑いかけたのである。


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